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月曜日に登校すると、敦は栗里を呼び出した。
「なに? 前に渡り廊下から見てたの、知ってるけど、梶原は市原さんに本気じゃないんだから、僕は責められる理由がないと思うけど?」
栗里は俺が話しかけるとイライラして言った。当たり前だ。こいつは俺のライバルでもある訳だし。だけど手を借りるなら栗里しかいない。俺は頭を下げて事情を話した。
「はあ? 告白したい子がいるから力を貸せって、馬鹿なの? なんで僕がお前に協力しなきゃいけないわけ? お前が生田さんを好きだったとして、それは絶対叶わないし、もしホントにそうなら僕はとことんお前の邪魔をするね。お前には恨みがあるからさ。それ以上に、まさか今更市原さんに本気だなんて言わないんだろ? もしそうなら、余計に邪魔したいね」
栗里は苛立ちも露わにそう言った。しかし敦は栗里に頼むしかないのだ。出来ることは全てやってしまっていて、あとは栗里だけが頼りなんだから。敦はもう一度、協力してくれ、と盛大に頭を下げた。DKのプライドなんて言ってられない。好きな子に告白できずに卒業なんて、出来るもんか。
栗里が、呆れた顔をして敦を見ていた。
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桜のつぼみが硬く結んだその先端を綻ばせている。空には雲がたなびき、少しぬるんだ風が鳴海の頬を撫でた。講堂で卒業式のリハーサルを終え、三年生は帰宅していった中、鳴海は久しぶりに生徒会室に来ていた。……もう籍を譲ってしまった部屋だけど、この部屋で梶原と色々な話をした。しんみりと三年間の思い出を思い出していると、ガラリと扉が開き、梶原が入って来た。
「あれっ、市原、来てたの?」
「梶原こそ、なんで来たのよ」
鳴海が振り向くと、梶原は照れたようにへへへ、と笑った。
「まあ明日で高校生終わりだし、積もる思い出に浸ろうかと思ってさ」
「そうね。明日で終わりだね……」
春の空気に溶かすように加奈子が言うと、梶原が、そうだな、と頷いた。
「契約も、……明日までだ……」
「そうだね……」
本当に梶原と関わってしまって、三年間色々あった。思い出せばキリがない。全ての始まりはあの春からだった。梶原に腐女子がバレて、契約カップルになった。一方的かと思ったら、梶原も脛に傷持つやつだった。お互いがお互いの推しを推し続けて、相手の推しを最初はけなしたが、次第にそれを推す姿勢を受け入れていった。思いもかけなかった時に鳴海は梶原への片想いを自覚し、それと同時に失恋した。それでも梶原が笑っているのが嬉しかった。幸せそうに手を繋いだ梶原と由佳の姿を見て、ちょっと胸は痛かったけど、でも嬉しかった。あの春にスマホを落とさなければ、梶原がぶつかって来なければ、こんな気持ちを抱くことはなかったんだなあと思いつつも、それを含めて、楽しい思い出が出来たと思う。心残りと言えば、梶原が由佳に告白しなかったことだ。はっきりさせて、鳴海に決定打を突き付けて欲しい。大学へ行ったら忘れるつもりだけど、春休みの間、もやもやして仕方ない。だから、促すつもりで言ってみた。
「……梶原……」
「ん? なに?」
「ホントに由佳に告白しなくていいの……? もう会えなくなっちゃうんだよ……?」
本当に自分でも何をお節介妬いてるんだか。それでも梶原には明日校門を出るときに晴れ晴れと笑っていて欲しいから……。だから。
「かじ……」
「言うよ」
ふと。
言葉が被った。
梶原が真剣な顔をして鳴海のことを見ていた。
その目を見て悟る。
ああ。やっと決心したんだ。梶原は悔いなく高校生活を終えることが出来るんだ。
どこか安堵の気持ちと、一抹の寂しさ。そんなものを抱えて、鳴海は頷いた。
「……大丈夫だよ……。梶原なら、きっと上手くいく」
鳴海が言うと、梶原は表情を和らげた。……まるで今の流れる空気みたい。ぬるんで、あたたかくなったそれみたい。
……梶原に、春が来る……。