外部公開の時間も終了し、今は校庭で催しに使われた部材などを燃やしてキャンプファイヤーを行っている。その周りで生徒たちが各々に過ごしながら、次第に暮れ行く夕陽の中で一組、また一組と男女が固まっていき、火の明かりが届くところはカップル、陰になっているところは独り者、という図式が出来上がるのだ。これは長年のキャンプファイヤーを経て、自然発生的に生徒がそう行動してきたことが今ではジンクス化して、日向ものか、日陰ものか、の違いが来週からの学校生活に大きく影響する。

生徒会室で返却された備品のチェックをしていた鳴海は、ぼんやりとキャンプファイヤーの明かりを窓の外に見ている梶原に声を掛けた。

「……行かなくて良かったの?」

鳴海の声掛けに、梶原ははっとした顔をして、そして顔を取り繕った後、何のことだ? と言った。

「誤魔化しても分かるわよ。……梶原、由佳のこと、まだ好きなんでしょう? キャンプファイヤーで、日向ものにならなくて良いのか、ってことよ」

ズバリ言うと、梶原は、いいんだ、と言って首を振った。酔っ払いには強く出られるのに、好きな子相手だと、こんなにヘタレなのか……。まあ、恋すると人は弱くなるよね、分かる分かる。大体の二次創作で、恋した途端にそれが本人にとって弱みになっちゃってるんだよな。其処を相手がどう落とすかというバリエーションが揃っていることで、二次創作はそれが萌えなんだけど……。鳴海は言葉を続ける。

「由佳はあんたがクロピーの言葉を言ったのを、あんまり気にしてないみたいだから、もう言わないと後悔するだけになるよ? クロピーが好きでも流してくれる由佳って、心が広いじゃない。ミスタコンでランウエイ歩けたたからって、あれは生徒全員の持ち上げ企画なんだから、ちゃんと由佳に言わないと駄目だよ。後悔してからじゃ遅いのよ?」

梶原に言っておきながら、鳴海の心臓はずきんと痛んだ。いやいや、ここは梶原と由佳で収まるべき。

「良いんだよ、俺は。もう生田に何を言うのも遅い」

そんな状況に、自分からしたんじゃないか。それでも由佳は流してくれているんだから、由佳のやさしさに頼るべきなのではないか?

「それより、お前は良いのかよ」
「は? 何でここで私の話が出てくんのよ?」
「腐女子ってこと、隠しっぱなしだろ。みんなを騙したまま、卒業して良いのかよ」

うぐっと鳴海は言葉に詰まった。梶原はあの時どさくさに紛れてゆめかわオタクを、半ば公言したことになるから、急に諭すようなことを言ってくるんだな。まあ、周りがあんまり引いてないから言葉を流されている感はあるけど、ここまで隠し通してきたことを、自らの口で発言したのは凄いと思う。しかし、梶原が隠し続けてきた理由が、鳴海が中学時代に受けた仕打ちより酷い、だなんて、誰が分かるのか。ましてや、鳴海の黒歴史はまだどくどくと血を流している。卒業式の決意は、あの時のままだ。彼氏と笑って卒業とはいかなくなるけれど、一般人として、寂しくない卒業式を迎えたい。東林には未だ沢山の友人が居るし、中学時代の誰にも振り向かれなかった卒業式よりは、楽しく卒業式を迎えられるはずなのだ。

「いいの。私は擬態して卒業式を迎えたいのよ。あんな辛い思いは、もうまっぴら。それよりあんたよ。由佳と仲良さそうにランウエイ歩いてたじゃない。なかなか悪くない感触だったと思うけど?」

どんなにおだててもはっぱをかけても、梶原は良いんだと言うばかりで、ここまで条件が整っていながら告白できない梶原を、鳴海は呆れた目で見た。

「梶原がそんなヘタレだと思わなかったから、てっきり卒業までの何処かで告白するつもりなんだとばかり思ってたわ。言っとくけど、由佳には『付き合ってる振り』だってこと、言ってあるからね?」
「は!? なに勝手なことしてんだよ!!」
「だって、其処までヘタレだと思ってなかったんだもの。だからあとは、梶原がどう行動するかだけよ」

鳴海はそう言って生徒会室を出た。
なんだか胸の奥が痛い。こんなシーン、二次創作であったなあ、なんてぼんやりと考えた。