午後三時になった。この時間からは朝から投票が受け付けられていた、東林高校ミスコン、ミスタコンの結果発表の時間だった。全校生徒が講堂に作られたステージ周りに集まり、その結果発表を楽しみにしている。既に10位から4位までは発表されていて、香織は5位に入っていた。何気に人気あったなあ、『TAL』の話を全開でしてたのに。

(……ということは、オタトークと人気・信頼は関係ないってこと?)

それでも鳴海の脳裏には中学時代の暗黒の歴史が蘇った。あんな風に男子に蔑まれ、親友まで失う事態にはなりたくない。特に由佳は、萌えを抜いても鳴海の心のオアシスでもある。彼女に嫌われるのは嫌だ。

(それにしても、梶原は馬鹿なことをしたわ……。まあ、由佳があんまり気にしてないのは良かったけど……、取り返しのつかないことになったら、どうするつもりだったんだろう……。まさか、告白もせずに卒業しちゃうつもりなのかしら……)

それなら話は分からないでもないが……。そう思いながら壇上の発表を見守る。もう次は2位だ。

「ミス・東林第二位は~……、3年C組の生田由佳さーん!」

鳴海と由佳の周りで、わあっ、と歓声が起こる。驚いている様子の由佳が、ぱちぱち、と拍手に見送られて、迎えに来た進行役に連れられて壇上に上がった。上位のミス東林は同位のミスター東林から花を貰う習慣(今年は梶原のごり押しで花冠になった)だが、なんとここで、ミスター東林の2位が居ないことが発覚した。

「ええ~……、非常に珍しい事態が起こっております……! ミスター東林第1位は、同票2名です!!  よって、生田さんへの花冠の贈呈は、1位の方のどちらかからして頂きます! それでは1位の方のお名前読み上げますので、壇上へお越しください! まずは~……、3年F組の栗里孝也くん! そして、3年A組梶原敦くん! おめでとうございます!」

おお~っ、と講堂にどよめきが響き渡る。梶原はスポーツマンであるし行動力は抜群だから人気があるのは分かるし、栗里は鳴海に見せたチャラい所がなければその面と物腰柔らかな所作で東林の王子的存在であり、3年にも後輩にも信者は多い。なるほど、この二人は決着がつかなかったのか。壇上に上がった二人はいがみ合うように笑っていて、これは決着をつけておいた方が良かったのではないかと思った。

「そして、ミス東林の第1位は、3年C組の市原鳴海さんです! おめでとうございます! 壇上へお越しください!」

鳴海の周りがわあっとわく。ええっ、当事者になってみると意外と恥ずかしいものだな。由佳が動揺しながら壇上に上がって行ったけど、今、由佳の気持ちが分かったわ。

迎えに来た進行役と壇上に上がる。まずはミスコンのたすきを掛けられ、そして花冠を貰っていない由佳と一緒に並ぶ。司会が梶原と栗里に花冠授与を促した。

「え~、梶原くんと栗里くんは生田さんか市原さんに花冠を授与してください!」

すると進行役が持って来たピンクと黄色の花冠を奪い合って、言い争いが起きた。

「梶原は生田さんが好きなんだろ? だったら市原さんに花冠を贈るのは僕だ。もう茶番劇は終わりにしなよ」
「なっに言ってやがる! 市原は俺の彼女なんだよ! そんなの全校生徒が知ってるぞ! 俺が生田を好きって、そんなの何処から出た話だよ!」

あああ、梶原が建前と本音の間で揺れている。だから早く告白しちゃった方が良かったのに……。

鳴海がおろおろと見守る中で、栗里がさっと黄色の花冠を奪って鳴海に素早く被せた。

「お前はちゃんと心の声と向き合えよ、梶原!」

そして上位入賞者だけが歩く花道を、栗里が鳴海の手を引いて歩き出す。

「ちょちょちょ……」

焦る鳴海に栗里が声を掛ける。

「市原さんも、もうあんな奴に付き合うことないんだよ。僕にしておきなよ。僕は本気だよ、ずっと前からね。もし僕を選ばないなら、自分に正直になったら?」

栗里が鳴海に本気? そんなの信じられるわけがない。今だって、梶原に見せつけたいだけで鳴海の手を取ったんだろうし、それには梶原は由佳が好きなんだろう? という気持ちも籠っている筈だ。それを本気だなんて、思えない。それに。

自分に正直に……。そんなの、……出来る筈がない。梶原を想えばその隣を由佳に譲るしか出来ないし、性癖については中学時代を繰り返すのは嫌だ。今、こうやって黙って栗里に手を引かれているのが一番いい選択なのだ。栗里が鳴海のことを本気で好きでないから、鳴海もまた、この手を振り払わずに済んでいる。梶原と由佳のランウエイは、真実、全校生徒に祝福されるべきものなのだ。

壇上を振り返ると、梶原が照れくさそうに由佳にピンクの花冠を被せ、その小さな手を取ったところだった。二人は微笑みあい、本当のカップルのようだった。梶原は最初の印象とは違って、クロピーを理想とする、正義感が強くて女子を引っ張って行けるかっこいい男子だ。由佳にも申し分ないと思う。

(これで良いのよ……。梶原にも由佳にも、幸せになって欲しいもの……)

二人がゆっくりと花道を歩き出す。ピンクの花が揺れる由佳と、嬉しそうに手を繋ぐ梶原の様子を見て居られなくて、鳴海はそっと視線を外した。

……その様子を、由佳が眩しそうに見ていた。