「ごめん! それから、ありがとう!」
「怖くなかった?」

酔った男の人を教師に預けて帰って来た梶原に、由佳と香織が礼を言う。……鳴海は素直になれなかった。

「気にしないでいいぜ。でもおい市原、友達助けたさに飛び出るのは良いけど、酔った男に女一人で正面から行くのはあんまり得策じゃないからな? これからも気を付けた方が良いぜ」

にっと微笑んで、梶原が言う。その時、梶原の手の甲に擦り傷を見つけた。それは由佳も同じだったようだった。

「梶原くん、怪我してるわよ」
「ああ、さっき市原の手を引いたときに抵抗されて、あいつに引っ掻かれたんだな。大丈夫だ、ほっといても治るぜ、こんな擦り傷」

なんてことないように梶原が言う。でも、これから片付けもあるし、当たったら痛いと思う。

「梶原、保健室で消毒してもらいなよ。由佳、付き添ってあげて?」
「えっ? なるちゃんが付き添えばいいんじゃない?」

梶原にキャンプファイヤーに望みを繋げようと思って鳴海が由佳に梶原を託そうと思ったのに、そうか、由佳は鳴海と梶原が付き合ってると思ってるから、自分が適役じゃないと思ってるわけか。やっぱりこのまま黙ってると、梶原に不利になるだろうな。梶原、それで良いの? 良いわけないじゃん……。

「梶原。絆創膏あるから、貼りなよ」

鳴海はそう言って、以前梶原と一緒に行った限定企画で買った絆創膏を取り出した。シールを剥いでぺたりと腕に貼る。

「ははっ、クロッピかよ」

クロピーを貼られたことに、なんの抵抗も示さないのか。悔しくて鳴海の口はへの字になる。

「良いでしょ何でも。傷に当たらなければ」

鳴海の言葉に、梶原はサンキュ、と笑った。