ハッとして体温の主を見ると、梶原だった。
「飲酒行為は校内で禁止されてます。生徒会会長の役目として、校外へ出て行ってもらいます」
鳴海が目を丸くして見上げた梶原は凛々しかった。まるで一年の頃に鳴海に見せていた……、そして今でも鳴海以外にはそう見せているであろう、リーダーシップ溢れるスポーツ万能な生徒会長の梶原の顔だった。
「なんだあ!? お前は!!」
「生徒会長として、校内の安全を確保するため、あなたには校外へ出てもらいます。ご一緒いただけますよね?」
にっこりと、怖い笑みを浮かべながら酔っ払いに対して梶原が言う。赤い顔をした男が腕を掴んだ梶原に対して暴れ出したのをいなして取り押さえた様子を、騒ぎを覗きに来たワークショップに参加していた子供が見て、はしゃいだ。
「すげー! おにーちゃん、かっこいー!」
すると梶原は、子供に向かってにこっと笑顔を向けると、親指を立ててこう言った。
「Do my ideal!」
にこっと子供に笑いかける梶原は、正義の味方かな? まあ、由佳が居るからカッコつけるわよね、と鳴海が理解すると、子供が嬉しそうに叫んだ。
「あっ、クロッピだ! どぅーまいあいでぃーる!! ぼく、じゅくでならったよ!!」
ええええっ!! 梶原っ!! こんな公衆の面前で性癖公開してどうすんの!!
鳴海が焦って目を見開いたのに、梶原は満足そうに微笑んでいる。
「そうか、少年。お前もクロッピを見習って、立派な大人になれよ!」
「うん!!」
少年と梶原の間に何やら友情が芽生えているが、鳴海はそれどころじゃない。今までひた隠しにして来たゆめかわオタクを自らばらすって、どういうこと!? しかも今は由佳だって居るのに!! あわあわと鳴海が泡を吹きそうになっているのに、梶原がすっきりした顔をしているのが気に食わない。
「……っ」
なによ……。なに、急に悟ったような顔、しちゃってんのよ……。こっちは今まで、一生懸命……。
なんだか悔しくて負けたような気持ちになる。騒ぎを聞きつけて周囲に集まって来ていた生徒たちのうち、ピーロを知っている人たちには、子供の「あっ、クロッピだ!」の言葉で、梶原がクロッピについていくらか知っていることはバレてしまったであろうに、そんな清々しい笑顔を振りまいて……。
……なによ……。私が腐女子を隠してることが馬鹿みたいじゃない……。私だって、本当は晴れ晴れとみんなで『TAL』のこと、話したいのに……。
それでも。どんな契約上の彼氏であっても、卒業式まではちゃんと鳴海の彼氏を演じてもらわないと困る。だって、鳴海は今でも契約上の約束を守っているのだから。