翌日登校した敦は、昨日の写真を見ていた。クロッピの姿をした自分と、キッティの姿をした市原の写真。市原の企画は敦のハートを打ち抜いた。敦にクロッピを堪能させてやろうという市原の気遣いが心に染みた。この感謝を……、敦の気持ちをどう伝えたら良いものか。頭を抱えて唸っていた敦に声を掛けた人が居た。

「梶原くん、おはよう。なにを頭抱えてるの?」

生田だった。その微笑みで敦を安らがせてくれていた生田の天使のような雰囲気は今日も変わらない。はよ、と挨拶を返す敦のスマホの画像に気が付いた生田が、あっこれ、と指摘した。

「これって、限定企画のクロッピとキッティの衣装だよね? すごい、こんな衣装があったんだ~」
「そうなんだよ、市原が見つけてくれてさ」

何気ない会話のつもりだった。しかし生田はぱちりと瞬きをした。

「? なるちゃんが梶原くんの為に見つけたの? なるちゃんが自分の為に見つけたんじゃなくて?」

ハッとした。今、自分は迂闊なことを言ってしまったのではないだろうか。市原に振り向かれなさすぎとはいえ、気を抜きすぎた。……というか、此処まで市原がきっちりと契約を守ってくれていたからこそ、敦はオタバレしなくて済んできたのだ。ぱちぱち、と瞬きをする生田にどう答えようか悩んで、腹をくくった。男ならクロッピを目指すべし。だったら、すべきことはただ一つ。Do my ideal、だ。

「じ……実はよ、……俺、……く、クロッピが好きでよ……。……そ……っ、それで……、……」

小さな声はスマホを置いた机に落ちた。しかし生田は静かに黙って敦の告白を聞いてくれた。そして敦を罵るのではなく、

「そうなんだ~。クロッピ、かっこいいもんね。子供の時は、クロッピが夜に駆ける王子さまみたいに見えた時もあったよ。梶原くんにも、そんな風に見えてたんだね」

微笑んでそう言って、敦のオタク魂を認めてくれた。心がふわっと軽くなる。……もしかしたら、言ってしまえば『ただの趣味』なのかもしれない。言わなきゃ、分からない。子供の頃と、今とでは、周りの環境も違うから……。

みるみる勇気が湧いてくる。敦は咄嗟に生田の手を握った。

「生田、サンキュー! 生田のおかげで、俺、吹っ切れそうだ!」
「う、うん? ……なんだか分からないけど、役に立った? のなら良かったわ」

そう言ってにこりと微笑む生田はやっぱり天使だ。天使に諭されて、敦の胸の内が固まっていく。

「よし!」

生田の手を放して、ぐっとこぶしを握る。

「生田。今のことはまだ、誰にも言わないで居て欲しい。俺がずっと隠してきたことだから、絶対自分からみんなに言いたいんだ」

強い眼差しで生田を見ると、生田は微笑みで応じてくれた。

「うん、言わない。約束守るね」

にこりと微笑む生田を前に、敦はひとつの想いを、心に秘めた。