「うおっ!」
「わっ!!」

ゴン! ドサッ、ボフン!

コンソールテーブルとソファの間にあったソファテーブルの脚につま先を引っ掛けてしまい、梶原が鳴海の手を握ったまま、ベッドに倒れ込んだ。

握った手をそのままに、梶原が鳴海の手をベッドに縫い付けていて、梶原の顔を、真正面に見た。……梶原が、真上から鳴海を見つめている。梶原は、驚いているのか、鳴海をベッドに押し倒したまま、微動だにせず、目をまん丸く見開いたりしたままだった。

なに? これ。なにこれ、なにこれ? 何が起こってるの? これは?

鳴海は自分の身の上に起きたことを整理できないで居た。真上から鳴海の顔を覗き込んでる梶原の凛々しいこと凛々しいこと。皇子衣装も相まって、その姿は鳴海の心臓を打ち抜いた。えっ、これ、神作家さんが描いたウイリアムとテリースの告白シーンにあったよね? えっ? でも、梶原が私にそんな気なんて一ミリもない筈だけどな??? 多分、梶原も、今何が起こったのか、分かってないと思うんだけどな???

(えっ???)

二人同時に思ったことだった。という事は、二人同時に。

「わあっ!」
「ごめん!」

二人して相手から跳び退る。……と言っても、鳴海は退路があるわけではないので、ベッドに張り付いていて、梶原がベッドから跳び退ってずり落ちた。ゴン! とソファテーブルの角に腰をぶつけて、いてて、なんて言ってる。

……何だったんだ、今の空気……。まるで……、まるで……!!

いやいや、そんなの思い違いだから。梶原の想い人は由佳だから。今のはなんか、気の迷い。うん、絶対そう。

すーはーと深呼吸をして冷静になる。腰を打って床に座り込んでいた梶原を笑って、鳴海は手を差し伸べた。

「折角の皇子衣装が台無しだよ、梶原。さっさと写真撮って、お茶しよ」

梶原は鳴海の手を取ってくれた。……顔は見てくれなかったけど……。





微妙な雰囲気でお茶を終えたから、このままデートは終わって帰るだけなんだと思った。それなのに、梶原は鳴海をシンバルニアの店に誘った。こんな微妙な空気なのに、梶原はクロピーに新しい家具を見繕いたくて仕方ないらしい。鳴海のこの気持ちなんて伝わってないんだな、と思うと、寂しかった。でも、もともと鳴海と梶原は契約でつながった関係なだけだから、梶原が鳴海の気持ちを汲み取ってくれないからと言って、文句を言う筋合いはない。鳴海はあれこれとクロピーに家具を選ぶ梶原に付き合った。

「このベッドとかよ、割とシンプルであのクロッピに合うと思わねーか?」
「うん、そうだね」
「この端の水色のラインが、クロッピのお腹の色にぴったりだよな」
「うん、そうだね」

何を言われても、平常心を保って返事を返すだけで精いっぱいだった。梶原が鳴海を見るとき、脳裏にはさっき、二人でベッドに倒れ込んだ時の、鳴海の顔を覗き込むようにして見てきた梶原の顔を思い出してしまう。

かああ、っと頬が熱くなったのを自覚した。それなのに、梶原は鳴海の隣で平気な顔で家具を選んでいる。……全くの空振りなのは理解しているのに、それでも鼓膜の奥で打ち付ける心臓の拍動はどうにかならないものなのか。意味がないことに振り回されるのは嫌なのに……。鳴海は小さくため息を吐いた。