しかし、その心の誓いも梶原の性悪な笑いの前に無残に砕け散る運命にあるらしい。デビューの甲斐なく腐女子を大々的にばらされるか、梶原の金銭の要求を卒業まで受け続けるか、あるいは何か別の梶原の遊びに付き合わされるのか、どれをとっても鳴海の高校生活は薔薇色一転暗黒の地に落ちた。そんな風に鳴海がぐるぐると恐ろしい想像を次から次へと繰り出す中で、梶原はいい案思いついた、と言って指をパチンと鳴らした。
「じゃあ、こうしようぜ。俺は市原のこと、美人で頭良くて、結構ポイント高いと思ってる。だから、俺と付き合う、っての、どう?」
…………。
は?
脳みそフリーズ。
えっ? 今この人、私と付き合うって言った?
「…………、……えっ? わた……、私と、……梶原くんが?」
「丁度いいんだよ。俺も、顔と性格で慕われてモテてるの鬱陶しくて、虫よけ欲しいと思ってたとこなんだよな。でも、本気で好意のない女子にそれを頼むのも心が痛むだろ? でも、今の市原なら好都合だ。市原は秘密を守れる。俺は周りの皆に有無を言わせない美人の市原という彼女が出来る。利害は一致するだろ?」
なんか頭おかしいこと言ってんな……? でも……。
「……念のため聞いとくけど、本当の彼女じゃなくて良いんだね? つまり、私たちは……『契約カップル』になるってこと?」
「そうだな」
スマホを片手ににっこりと笑ってるこの男は鬼かと思った。でも本当のお付き合いをしないなら、表面だけで誤魔化して、リアルお付き合いにならないのならいい。なんて言ったって鳴海にとって性癖がぎっしり詰まったスマホの中身に勝るものはないんだから。それに、高校で彼氏を作る、という目標も(難は残るが、鳴海の性癖を固持したうえで)、達成できる。
「……良いわ。梶原くんは虫よけが出来る、私は秘密が守れる。利害は一致よ。梶原くんと『契約カップル』になるわ」
そうして鳴海と梶原の間に、契約が結ばれたのだった。