などと考えていたら、栗里が戻ってきて、鳴海にチケットの片方を渡しながら「これはおごりね」と、鳴海の悩みを消し去った。

「財布は仕舞って? デートに誘ったのは僕なんだから、おごらせてよ。っていうか、梶原はおごらなかったの?」
「最初はおごってくれてたけど、そのうち割り勘になったから。私も、ずっとおごられっぱなしは悪いなあって思ってたから、丁度良かったよ。身の丈に合った出費なら、払うべきだと思ってるし」

鳴海が言うと、栗里はにこりと微笑んだ。

「そういう考え、すごく良いね。女の子の中には絶対おごられたい、っていう子も居るから、市原さんの考え方は好感度高いよ」

いや、栗里に好感貰っても別に嬉しくないけど。
とは思ったけど、ぐっと口を噤んだ。

「そういう女の子が好きな男子もいるでしょ、きっと」
「そうだね。でも僕はそうではないかな」

話しながらスクリーン室に入る。入り口で栗里が棚からブランケットを取り出していて、座席に座るとそれを鳴海の膝に掛けてくれた。ブランケットを押さえるようにと鳴海の手を取って膝に置くようにさせられて、不意の体温の接触にどきりとする。

「ワンピースの裾が膝から浮くからね。本命の男には見せても良いと思うけど、一応エチケットとして掛けておいて? 勿論、僕に見せたいなら、取っても良いけど」

いちいちやることが紳士だな!! でもこういう気遣いはきっとウイリアムでもするんだろうな。彼も紳士中の紳士だから。どきどきが続く暇もなく、そんな風に栗里の整った横顔をウイリアムに重ねて見ていたら、栗里が鳴海の視線に気づいて、鳴海を見た。

「何かついてる?」
「……目と鼻と口が付いてる……」

まさか推しと重ねて見ていたとは言えずにそう言うと、栗里は軽く笑った。

「あはは。そういうのはね、見とれてた、っていうのの言い訳だから、気のない相手に言っちゃ駄目だよ? 僕に気があるなら、別に言ってても良いけど」

栗里が微笑みながらそう言うのを、鳴海はぽかんと聞いていた。
……そうなのか。ありがたい忠告だ、気を付けよう。まあ、今後そんな場面に出くわすことはないと思うけど。
ブザーが鳴って、映画が始まる。スクリーン上で繰り広げられる恋愛ストーリーの脇役でBL妄想出来るなら楽しいのに……。ああ、梶原とだったらそんな軽口も叩けるんだなあと思うと、擬態したままの状態で男子とデートすることの重みを、改めて感じてしまった。