図書室での勉強会からの帰り。電車に乗っているときにお互いの推しについて話すのは、もう日課になっていた。

「見てくれよ、このクロッピの生き生きとした顔! あのコラボ企画からクロッピがこんなに幸せそうな風景に居る写真を見られるようになったんだ! 俺は最高に幸せだ!」

梶原がスマホに表示させて鳴海に見せたのは、皇子ロリータの衣装を着たクロピーのミニチュアぬいぐるみが、カントリーかわいい衣装家具の展開で知られるシンバルニアファミリーのかわいらしいメルヘンチックな家の中にいる写真だった。今、SNSで、クロピーの華麗なる変身を遂げたフィギュアを使った写真投稿が相次いでいるそうだ。中でもこうした、かわいらしいディテールの背景雑貨や、ちょっとしたお茶会などのセッティングをされた背景の中に溶け込む皇子ロリータのクロピーが増えてきたのだと言う。勿論これらの写真に写っているミニチュアぬいぐるみは、この前の限定企画で販売されていたマスコットだ。

「あの限定企画は此処までクロッピの地位向上に益したんだな。俺もあんな変化を遂げるとは思ってなくて、今でもSNSでこんなにたくさんのクロッピたちが見られることが、夢のようだと思ってるんだぜ? いや、何度もほっぺたつねってるから夢じゃねーけど、でも今まであまりにも人気がなかったから、俺は嬉しくってよお」

スマホを持つ手が震えているのは、嬉しさでなんだろうな。わかるわかる、推しが陽の目を見ると、推してる自分たちが認められたような気持ちになるよね。分かるわー、その気持ち。

「ってことで、俺もクロッピのいい写真を撮りたいと思う。そこでだ。市原に是非頼みたいことがある」
「……また、どっかに付き合えって言うの……?」

今までの鬱屈を晴らすように、梶原は鳴海を自分の推し活に活用していた。まあそれは契約の内容に含まれているから仕方ないけど、ギブアンドテイクのバランスが偏り過ぎじゃない?
それでも、きらきらとした期待の目で鳴海を見てくる梶原を見ると、同じオタクとして嫌とは言えなくて、結局は頷いてしまう。ああ、私ってお人よし……。

そんなわけでまたしても週末に梶原に付き合って東京に来ている。いざ参らんと見上げた店舗は、ミニチュア家具のディテールで知られた、シンバルニアファミリーの店だ。此処へ出入りする客も、やはりピーロランドと変わらず女子子供が多い。梶原がちらちらと鳴海を見るので、仕方なしに鳴海が先導して店に入った。

「うっわ、すっげ……」

感嘆の呟きを発した梶原と、同じ感想を盛った鳴海は、この小さな家具たちに数多の女児子供の夢が込められているのだなあと知る。確かに課題図書だった赤毛のアンではこういう木のぬくもりを大事にした家具が使われていた記憶があるし、カントリー家具というジャンルは乙女チックな少女漫画に出てくることを知っている。

「俺もあの限定企画で買ったけど、クロッピのミニチュアぬいぐるみが手元にあるからこそ、皆がシンルバニアの家で遊ばせたりできるようになったんだよな~。でもシンルバニアの家や家具を俺が一人で買いに行くと変な目で見られるから、市原が居てくれてすげー助かる!」

そう言って嬉々として売り場を見て回り始めた梶原に、鳴海はついて行くだけだ。