「だって、クロッピが主役だなんて、クロッピに出会ってこのかた、なかったことなんだ……。いっつもキッティやシナロールたちがいろんな衣装やグッズの展開があるのを指くわえてみてたんだよ、俺……」

そこまで推してもらえて、クロピーも幸せ者だな……。でも買い物はお金がないと出来ないし、此処のコーナーだけで売り場が終わるわけでもない。鳴海は提案をした。

「仕方ない……。こんなこともあろうかと、梶原の為のお金を持って来たのよ、私。何時か返してもらうけど、このショップに付き合ったからには貸してあげる。ただし、計画的に使う事。お客さんの流れを見ると、まだまだ奥に売り場や展示コーナーがあるでしょう? そこまで見て、厳選して」

我ながら出来る契約彼女だな。そんな風に思っていたところへ、梶原がわっしと手を握って来た。えっ、急になに。手を放してくれないかな。

「いちはらぁ……っ!! お前って良いやつだなあ!! 金はぜってー返す! 来週学校で返すから、この場で貸しといてくれ!!」

感涙むせび泣くとはこのことか。いや、実際泣いてはいないけど、梶原の心の涙が見えたような気がする。あれっ、私も幻視かな。

「いや、それより手を放して。こんなところで握手なんて恥ずかしいわ」
「あっ、ごめん」

梶原は何の感慨もなく手を離した。まあそうだろう。この場に一緒にいるのだって、契約がなかったらありえなかったわけだし。
うん、まあ、そうだ。リアル男子に興味のない鳴海の手を握るのは、この感情激しい梶原くらいしかいない。そうなんだけど。
……いやあ、梶原の手ぇ、あったかかったな。ちょっとびっくりした。クロピーを愛する心が手の温度にも表れてるのかと思った。

心臓がちょっとどきどきしてるのは、不意打ちの握手の所為以外の何物でもないが、梶原の所為で心臓が跳ねるのは気に食わない。自分の隣で買い物籠を腕にうきうきしている梶原を見ながら、鳴海はそう考える。

「さあ、あっちの売り場にも行きましょ。随分明るい売り場みたいだし」

黒々とした壁に囲まれたこの売り場は、目の前に居る梶原を、明るい学校で会う梶原と違って見せているのだ。梶原は学校での梶原どおり、鳴海に対して何一つ己に嘘を吐かない、自分を譲らない梶原であって、鳴海に何か思うところがあるわけでもない。梶原と鳴海の関係は簡潔明瞭な契約関係であり、契約内容を守り遂行するために、そのお互いに対して有益であることが求められている。その為の鳴海の対応であり、それに対する謝辞であるだけだ。
この思考その間一秒。すうっと深呼吸をして気持ちを入れ替える。既に隣にいた筈の梶原は次の売り場に行ってしまっている。鳴海もその後を追おうとしたその時、次の売り場から慌てて戻って来た梶原が、興奮気味に鳴海に叫んだ。

「い、市原! ちょ、こっち来てみ!! すっげ! すっげーことになってる!!」

なにが凄いことになっているのだろう。いっそクロピーが実は女だったとか言うオチかな。そんなことを思いながら梶原について行くと。