そんなわけで、次のデートも梶原のプランに付き合うことになった。コラボショップは池袋のデパートで開催されるようだ。JRに乗っている間、梶原がクロピーがメインのコラボショップが初めてなんだという事を聞かされた。そう言えばこの前由佳が、梶原からもらったキーホルダーが25周年のデザインだと言っていたか。記念周年ならば仕方がない、協力してやろう。だけど、この借りは大きいぞ。なにせ鳴海は二回も梶原に付き合ってるんだから。

かくして鳴海と梶原は聖地(その地)に降り立った。聖地へと吸い込まれる人ごみに紛れる梶原は、今、ピーロランドに興味のない中年のおじさんが見てもありありと分かるくらい、異彩を放っていた。そのくらい、女子率が高い。っていうか、男子なんて居なくない? そういう意味でも、梶原は推しに会えない辛さを味わってきたのだろうなあと思うと、同じオタクとして心が痛む。目を輝かせてコラボショップ正面入り口に居る王冠を被った巨大なクロピーのぬいぐるみを見ている梶原に、涙を禁じ得ない。しかし、情に流されてはいけない。これは契約だ。契約とはフィフティフィフティじゃなければいけない。

「ちゃんと借りは返してもらうからね」
「分かってるって!!」

そう言って梶原と一緒にコラボショップに入っていく。其処はこれまで経験してきたピンクと水色のゆめかわの世界とは打って変わった、細い三日月の浮かぶ暗い紫の夜の闇の中、黒い屋根の影伝いに走るクロピーの絵が壁一面に描かれた、クロピーの活躍を盛大に描いた黒の世界だった。

「おおお、流石大怪盗を父に持つキャラ……、とてもゆめかわワールドとは思えない……」

などと呟いた鳴海の横で、梶原はやはりバシャバシャとフィギュアや展示用のぬいぐるみが展示してあるブースの写真を撮っていた。

「すっげー……、流石クロッピだ。隙のない仕草、冷静なまなざし、風に翻るマントまで美しいよ。最高だ、クロッピ……!!」

実際はフィギュアなんて石膏粘土でマントは翻ったままの固定だし、ぬいぐるみのマントは肩から垂れたままで風になんて揺れてないけど、梶原の目には風が見えるようだ。凄いな、視力いくつだよ、お前。っていうか、幻視じゃないの、その風。

そして展示ブースを過ぎると、店内の籠を手にしたかと思うや否や、壁や売り場に積み上げられたクロピーのグッズを次々とその籠に放り込んでいく。おいおい、それ全部買うつもり? 予算幾らよ、あんた。

「梶原、ちょっと冷静になったら? クロピーにどんだけ積むつもりよ」
「何言ってんだよ、市原! クロッピが主役である今日この場で散財しないという選択肢はないだろ!? お前だって推しのあいつらが主役を張ったらどんだけでもつぎ込むんだろ!? 分かれよ、この気持ち!!」

その気持ちは凄く分かる。痛いほどわかる。鳴海もウイリアムやテリースが人気最底辺から一気に主役に躍り出たら、ご祝儀でいくらでも詰み増してしまう。でも予算あっての買い物だ。梶原に再度予算を尋ねると、なんと万札二枚足りない。