「先輩!! そんな先輩を振り向かない女のこと、忘れてくださいっ!!」

(恋も愛もウイリアムとテリースの間にだけあればいいし、私は常にそれを見守る立場だから、恋という名のものは私の中には存在しないんだよねっ!!)

鳴海はまとめた荷物を持って席を立つと、自分より背の高い栗里を睨みつけて、人差し指で栗里の左胸を指した。

「あー、ばかばかしい。そもそも栗里くん自身が恋してないのに、なんで私が栗里くんに恋しなきゃいけないの。そもそも論、そこから間違ってるから」

じゃあ、私、帰るから~。
ひらひらと生徒会室を出て行きながら振り返りもしないでメンバーに手を振る。鳴海の推しとは比べ物にならないくらいに、やはり現実の男子はばかばかしい。そういう意味では梶原の推しに対する愛情は理解できるから、やっぱり自分にとってリアルな恋なんてものほどどうでも良いことはないのだな。

「あっ、市原!」

生徒会室の扉を閉め際に中から梶原から名前を呼ばれて、一応彼女として立ち止まる。梶原は鞄に仕舞ったと思っていたスマホを握りしめて、生徒会室から出た鳴海に駆け寄って来てスマホの画面を鳴海に見せた。

「これ! 今度あるんだけどよ」

嬉々として梶原が見せてきたスマホの画面には、ピーロランドのコラボショップが東京で限定開催されると言う情報が表示されていた。成程、今度はこれに行ききたいってことか。

「付き合っても良いけど、どうにも割に合わないわ。梶原の行きたいとこばっかに付き合ってるじゃない」
「そう言うなよ。市原が行きたいところがあるときは絶対付き合うから」
「私は別に付いて来てもらわなくても、一人で満喫できるけど?」

梶原は鳴海の推しに理解がない。同性という事もあり、やはりBLという壁は梶原にとって高いようだった。そう思うと、この契約、梶原に一方的に有利だな?
なんて疑問を抱いている間(ま)に、梶原に生えている見えない耳と尻尾がしゅんと垂れる。ああ~、きっとテリースの前でだけ見せるウイリアムの愛情ゆえの甘えをテリースが見たらきっとこんな感じだろうなあ、なんてちょっと自推しで梶原を補完してみたけど、梶原には萌えなかった。やっぱそうよね。

「まあいいわ、貸しにしとくから。いつか困ったことがあったら助けてよね」
「それは勿論、クロッピに憧れるものとして当然」

生徒会室を出てすぐの廊下でこそこそと話をしていたら、どうやら同じく生徒会室を出てきた栗里と清水にその様子を見られていたようだ。栗里が、うーん、と面白そうに鳴海と梶原を観察してこう言った。

「やっぱり梶原と市原さんって、恋人同士には見えないんだよなあ……。性格が違い過ぎて、どうにも接点が見当たらない。梶原が市原さんに惚れてるっていうのも納得できないし、市原さんがどうして梶原を好きなのかも理解できない。君たち、お互いの何処を好きになったの?」

そもそも論か。そこを突かれると痛いんだけどな。

「恋人同士の内情を、外野に触れて回る必要があるかな」

鳴海が栗里を牽制すると、栗里は肩をすくめて笑った。

「疑念が払しょくされないままになるだけだけど?」

明らかに挑発を意識した言葉に、梶原がけれど冷静に応じる。

「誰に疑問に思われようが、お互いだけが分かってればいい気持ちってあるだろ。お前そんなことも分かんねーのかよ」

栗里が肩をすくめて諦める。その様子を見ていて思いついた。もしやこの二人、鳴海というモブを挟んだカプが成立してしまうのではないか? モブを取り合っているうちに、お互いの負けん気で駆け引きするケンカップルのようなBLが成り立ってしまう!! その場合はどっちが攻めだ? 梶原は行動力もあってガキ大将がそのまま高校生になったような奴だけど、栗里と並ぶと意外と頭脳派の栗里が攻めになるのかもしれない。腕力勝負のガキ大将が頭脳派の攻めに論破されて……、なんて、結構二次創作で見てきたな!? いや、いっそ正攻法で梶原が攻めってどうだろう? 頭脳派栗里は梶原の直情的な感情表現にほだされていって、どんどんふにゃふにゃになっていく!! これは王道だわ!!

……などと鳴海が妄想してにやにやしていたのをどう見たのか、梶原が呆れた顔で、帰るぞ、と鳴海を促した。