(あ……っ、そうか。最近TekTokでCMし始めたから、ユーザーが増えたって聞いたんだった……)

そうか、今まで『TAL』を知らなかった人たちが、大手SNSのTekTokでCMを始めたことで、爆発的に人気が出て、ファンになった、という話を聞いたことがある。そこへ、今日のバージョンアップだ。新しくファンになったと思しきクラスメイトたちが『TAL』の話で盛り上がり、意気投合したんだろう。ええー!! 羨ましい! 私も話の仲間に入りたい!!

聴力を最大限にまで引き上げ、彼女たちの話を聞く。どうやら三人の内、二人は鳴海と推しが一緒のようだ。……ますますもって仲間に入って喋りたい……。
しかし、此処は学校。鳴海が一般人に擬態していなくてはならない場所。もし万が一腐女子がばれたら、この一年と少しの間、素知らぬふりをして来た分、周りの追及は酷いだろう。それに、腐女子がばれたら、梶原は鳴海を捨てる。そうなれば、こんな腐女子の鳴海には、もう彼氏の成り手は居ないだろう。イコール、中学の卒業式リターンズだ。それは絶対に避けたい。

(ううっ、クラスに仲間が居るんだって知ってたら、最初から隠さなかったのに……!!)

でも、女子同士でオタクな話は出来ても、彼女たちが腐女子かどうかは会話から分からないし、もしオタクだけど腐女子じゃなかったら鳴海にとって致命的だ。それに男子は腐女子のことを嫌う。それならば、腐女子を分かって尚、彼氏として契約している梶原を逃すわけにはいかない。やはり鳴海に、カムアウトの道はないのだ。

(なんてこと……。熱く語れる同志がすぐ其処に居るのに、交われないなんて……)

腐女子の何が悪いんだ。男子に迷惑をかけたことなんてないじゃないか。それなのに、鳴海を腐女子であるが故に忌避嫌悪した男子の存在が憎い……。鳴海は中学卒業式の時の屈辱を思い出し、唇後ギリッと噛んだ時。

「ねえねえ、生田さん、市原さん」

由佳と机を囲んでお弁当を食べていたところへ、教室の後ろで『TAL』について語っていた女子の一人が肩を叩いてきた。どきっと肩を跳ね上げた鳴海と違い、由佳は穏やかな顔で彼女に応じている。

「なあに? 香織ちゃん」
「生田さんたち、このゲームやったことない? 今、世のJKの間でめちゃくちゃ流行ってるやつ!」

声を掛けてきた河上香織がスマホに表示させて由香に見せたのは、今まさにバージョンアップされた衣装で微笑むウイリアムが微笑む『TAL』の一画面だった。画面を見る為に、油の切れたゼンマイ仕掛けの人形の如く首をぎこちなく動かし、その画面に表示されているウイリアムを見た時、鳴海は昇天するかと思った。