「清水……。僕は清水とは付き合わないよ。中学の時に何度も言ってあるでしょ」
「だってだって!! そりゃあ、栗里先輩はカッコいいし、スポーツも万能で、頭も良いし、更にはお金持ちのおうちだから、有象無象の女子を煙たがるのは分かるんですけどっ! でも私っ、本気なんですっ! 本気だから、高校まで追いかけて来てるんですっ! この本気さを、分かってもらえませんかっ!?」
おお、朝っぱらから、なんか熱烈な告白ドラマが始まったな。栗里の気持ちが逸れてくれると良いと思って、鳴海が傍観してると、栗里が座っている鳴海の肩を自分に引き寄せた。ぐっと体を引かれて、とん、と肩と背中が栗里に触れる。当然教室内の女子はきゃーと悲鳴を上げ、男子はおいおいーと傍観している。
「清水が悪いわけじゃないし、気持ちは嬉しいけど、僕が清水に持ってる気持ちはほんっとに妹見てるみたいな感覚なんだよ。そんな相手に恋愛するっていうの、無理だと思わない?」
「でもでも、先輩! この女よりも私の方がかわいいです!!」
栗里は、顔でからかう相手を選んでいるのかな。鳴海がそう思っていると、栗里は、違うんだよ、と言った。
「男ってね、手に入りそうなものより、手に入らなさそうなものを手に入れることの方が楽しいの。狩猟本能に似てるね。逃げられると追い掛けたくなる。だから、清水みたいに僕を追っかけてくる子は、最初っから僕の興味を引けないんだよ」
自分を好きだっていう相手に、結構辛辣なこと言うなあ。好きだからアプローチしたい、でもそれが相手をしらけさせる。清水という女の子が、少し可哀想に見えてしまった。
「というわけで、僕は市原さんに興味があるんだよね。どう? 一度僕とデートしてみない? 絶対損はさせないからさ」
るん、という擬音までついてきそうな軽いノリに、鳴海は頭痛を感じた。どうにもこうにも、鳴海の周りには普通の感覚の男子は居ないのか。一年の上期はひたすら擬態上の友達を作ることに集中していたから、三学期になった頃に周りの男子の様子を見てみたけど、やっぱり何というか、鳴海の推しのように鳴海の心を奪ってくれる男子は居なかった。そう思うと梶原はやり方があくどかったけど、鳴海の高校生活の悲願である『彼氏』になってくれたんだから、まあまあ許せる。栗里も、正確に難はありそうだけど、外見は推しそっくりだから、観賞用にはいいかもしれない。
そんなことをやっているうちに予鈴が鳴る。清水はそれでも栗原の言動に堪えないのか、先輩、また来ますから!! と言って、教室を去って行った。
一陣の嵐が去った後、梶原が呑気に登校してきた。鳴海はぱっと栗原から体を話して、そっけなく誘いを断った。
「えーと、悪いけど栗里くんは他を当たってくれるかな? 取り敢えず私、その気ないし」
本音を言えば梶原にだって全くその気はないのだが、擬態しているので『彼氏がいるので』面を装った。栗里はまじまじと鳴海の顔を見て、しばらく考えた後に、
「そう? まあ梶原の彼女だし、そう言われると思ってたけど、市原さんって僕から見て、今でも十分に魅力あるんだよね。だから絶対僕のものにしてみせる」
などと宣言した。鳴海を囲んでいた女子たちのきゃー、という声が教室に響き、梶原がなんだなんだ、とこっちを見ていた。