「それより、ピーロランドに行ったんだって?」

この高校に入学して以来、この学年ではどっちかというと梶原派という人と、どっちかというと栗原派という人に分かれていた。……とはいえ、学校が二分するようなことはなく、梶原のリーダーシップでこの学年はまとまっていた。

「そうなの、梶原が連れて行ってくれたの。初めてだったけど楽しかったよ」

鳴海がそう言うと栗原は、ふうん? と一瞬思案した様子になって、それからこう言った。

「初めてのデートプランにしては、梶原のプランに頼りすぎじゃない? 普通だったら市原さんの好みを聞いて優先しそうなのに」

そう言うものなのか? なにせ、本質は腐女子で一般人のデートがどんなものか分からないので、言い返しようがない。鳴海としては一般人のデートをリードしてくれたのだから、これ以上ない感謝を梶原に感じている。

「初めてだったんだけど、でも楽しかったよ。いっぱい写真も撮ったし、お土産まで買ってくれたの」

そう言って買ってもらったキーホルダーを見せれば、あっ、それ25周年の記念デザインだね、と由佳からアシストが入る。

「かわいくてお気に入りなの。丁度タイミングよく行けて、良かったわ」
「へえ……。意外だな。市原さんって、そういうかわいい系じゃないと思ってた」

どきっ。本当はカッコいいのとクールの組み合わせが最高に好きですけど、それは言えない。そう思って、そお? とあいまいに返す。

「僕なら、市原さんを本当に満足させられそうなのにな。……市原さんさあ、一度、僕とお試しにデートしてみない?」
「は?」

話の急な展開に鳴海が目を白黒させていると、栗原はにこりと柔和な笑みを顔に浮かべながら、続けた。

「なんとなくだけどね? 市原さんと梶原ってタイプが違うから、趣味とかがかけ離れてるんじゃないかと思うんだ。梶原はアクティブ派だけど、市原さんって文科系というかインドア派に見えるんだよね。だから、僕と市原さんはタイプが似てると思うんだ。デートプランも、テーマパークより映画とかの方が好きそう」

微笑む栗里と、黄色い声を上げる鳴海を取り囲んでいた女子たち。一気に騒がしくなった教室に、廊下から悲鳴のような声が聞こえた。

「栗里せんぱーいっ!! そんな彼氏のいる女よりも、此処に先輩に声を掛けられるのを待ってる女子がいますうー!!」

悲鳴と共に教室の扉を開けて、栗里に体当たりした生徒の胸のリボンは緑色。一年生だな。しかし凄い度胸。普通、後輩って、先輩の教室に入るの緊張するもんじゃない? 少なくとも鳴海はそうだけど。