月曜日に登校すると、席に着いた鳴海の所にクラスの女子たちがわっと集まって来た。

「市原さん、梶原くんとデートしたんだって?」
「梶原くんのエスコートでピーロランドに行ったんでしょ?」
「いいなあ。梶原くんイケメンだしスポーツマンだし、リーダーシップもあるし、いいなって言ってる子多いんだよ」
「でも、梶原くんと市原さんだったら文句言う人居ないよね~。美男美女カップルで、非のつけどころがないし!」
「写真ある? 私服の梶原くん、見てみたい!」

そう口々に言われて、そこまで梶原の人気が女子たちに浸透していたことに驚く。一見、まあイケメンではあるけれど、鳴海が関わるタイプではないと思っていただけに、梶原の先手は確かに鳴海に落ち着きを与えていた。スマホを取り出してクロピーとのスリーショットを見せると、鳴海を囲んでいた女子たちがわっと湧く。

「わ~、期待を裏切らないイケメン! チョイスがおしゃれ!」
「ピーロで目立ったでしょう? こんなイケメンの隣で写真が撮れるのは、やっぱり市原さんくらい美人じゃないと駄目だね~」

口々に騒がれて、おっ、これは表面的とはいえ、理想の卒業式に一歩ずつ近づいてる? と思わせる展開だった。それはまあ嬉しい。この人気を維持すれば、卒業式にわびしい思いをすることはないだろう。鳴海はそう期待した。その輪に加わった由佳が

「シナロールやクロッピよりも、なるちゃんの方がかわいいって言うのが羨ましいな。それに、ただ立ってるだけなのに、梶原くん、ファッション雑誌の読モみたいにかっこいいし。クロッピのイケポーズも霞んじゃうね」

などと言ったのを、周りの女子たちが肯定する。この女子受けが、腐女子であることが知れたら手のひらを反すように覆るのかと思うと、それが、なんとしてでも腐女子であることを隠し通して、友達と彼氏に恵まれた卒業式を迎えるのだと、余計に鳴海に思わせた。
その時、女子の輪の外側からにゅっと背の高い男子が鳴海のスマホを覗き込んだ。

「あれ、市原さんってピーロランド好きだったの?」
「きゃっ!」

声を掛けてきたのは同じクラスの栗里だった。急に現れた栗里に驚いて、小さな悲鳴を上げたのは由佳だ。

「栗里くん、急に人の頭の上からの登場の仕方はどうなの? 由佳がびっくりしてるじゃない」
「いや、みんなが騒いでたから、気になって。驚かせてごめんね、生田さん。大丈夫?」

栗原はやさしそうな顔をしたイケメンで、梶原が剛とすれば栗原は柔、というイメージの物腰柔らかな男子で、こう言う時の女子へのフォローもスマートで完璧だ。由佳は少し顔を赤らめて、突然のことに跳ねたのだろう胸を押さえながら、大丈夫、と頷いた。