朝、待ち合わせたターミナル駅まで戻ると、鳴海は路線が分かれる梶原に呼び止められた。
「これは、俺のささやかな心遣いだ」
そう言って差し出されたのは、クロピーのキーホルダーだった。梶原の手には二つそれが載っていて、一つは自分用らしい。
「これで如何にも、俺がお前の誘いを断れなくて、仲良く一緒にピーロランドに行った、っていう証拠が出来ただろ」
学校での擬態のテンプレートを作ってくれる梶原は、手の行き届いた男だな、と思う。鳴海はありがたくキーホルダーを受け取ると、鞄に仕舞った。
「これから学校に付けて来いよ。俺は付けないけど持ってる。なんか俺らのことを疑われたら、今日の写真とこれを見せてやれ。お揃いのキーホルダーも良い証拠なんだよ。まあ、今まで通り、お前が学校でしっかりの擬態してれば、疑われる隙は無いと思うから、頑張ってくれよ」
最後にそう言い残して、梶原は帰る電車に乗り込んでいった。鳴海は月曜日からの学校生活のシミュレーションを頭の中で繰り広げた。取り敢えず、由佳にSNSのアカウントを取ったことを報告して、流れるように交わされるであろう女子トークをせねばなるまいな、とは思った。