電車を乗り継いで、バイト先のホームセンターに向かう。「おはようございます」と声をかけて入っていくと、店長の新田さんが爽やかな笑顔で返してくれた。
「今日も宜しくね。日用品からお願い」
「はい」
私の仕事は品出し作業がメインだ。たまに他のバイトさんに冷たい目で見られるけど、言い返すことはしない。言い合いになったら私は黙ったまま負けてしまうのは目に見えているし、パートのおばちゃんたちがフォローしてくれるから大事にならない。風当たりは強いけど、働きやすい職場だ。
学校の制服から既定の服装に着替えて店内を巡回する。出る前に店長から言われた日用品コーナーをざっと見て在庫の少ないものを把握していって、ある程度目星がついたら、台車を持ってきて倉庫から必要分を持ってくる。重労働だけど、今日の補充はトイレットペーパーみたいな軽いものが多かった。これを閉店時間までずっと続けている。
「ごめんなさいねぇ、このメーカーの石鹸はどこかしら?」
不意に後ろから声をかけられて振り返る。ご年配の女性が握りしめているメモ用紙を見せながら聞いてきた。しわくちゃになったそれを見る限り、随分と探していたらしい。
「えっと……少々お待ち下さい」
アルバイトを始めたばかりの頃に渡された配置図で石鹸コーナーを探す。じっと手元を見られているせいか、手が震えてうまく開かない。なんとか見つけて顔を上げると、すぐ近くの棚に陳列していた。屈まないと取れない一番下の棚の片隅に、薄っすらと埃を被った固形石鹸が置かれていた。
「こ、ここでした……」
「あら、気付かなかったわ! ありがとう」
「いえ、……その、すぐ見つけられなくて――」
「あとお弁当に入れる爪楊枝も探していただける? 可愛いのがいいんだけど」
「あ、は、はい!」
住んでいる場所が田舎ということもあって、訪れる人の年齢層は広い。この女性のようにフレンドリーに話しかけてくれることも日常茶飯事だ。そして何より常連客が多く、ご近所さんも利用していることから、接客対応がしどろもどろになる私には少しばかり余裕ができる。
なんとか爪楊枝も見つけて渡すと、女性はまた「ありがとう」とふわりと笑ってレジの方へ行ってしまった。これで買い物リストは制覇したらしい。
すると、入れ違いでアルバイトの先輩がズカズカとこちらにやってきた。年齢は私の一個上で、通っている高校も近いから電車でも遭遇するけど、まともに話したことはない。見るからに不機嫌そうで、なんとなく怒られるのだと察した。
「高田さん、補充が間に合ってないんだけど」
「す……すみません、お客様対応していて」
「ふーん……ろくに話せないくせに?」
「…………」
「どうせサボっていたんでしょ? パートのおばちゃんたちは騙せても、私は信用してないから。さっさと仕事戻ってよね」
そう言って先輩は踵を翻して陳列中の棚を整理始めた。私が出勤してからずっと同じ棚の整理をして、時々同じ学校のバイト仲間と駄弁っているところしか見ていない。話が盛り上がって騒いでいるのをお客様が見ていてクレームが入ったことも、きっと見て見ぬふりしているのだろう。
先輩がまたお喋りに参加したのを見届けてから、私は頭の中でアズの曲を流しつつ、日用品の陳列作業に戻った。
「今日も宜しくね。日用品からお願い」
「はい」
私の仕事は品出し作業がメインだ。たまに他のバイトさんに冷たい目で見られるけど、言い返すことはしない。言い合いになったら私は黙ったまま負けてしまうのは目に見えているし、パートのおばちゃんたちがフォローしてくれるから大事にならない。風当たりは強いけど、働きやすい職場だ。
学校の制服から既定の服装に着替えて店内を巡回する。出る前に店長から言われた日用品コーナーをざっと見て在庫の少ないものを把握していって、ある程度目星がついたら、台車を持ってきて倉庫から必要分を持ってくる。重労働だけど、今日の補充はトイレットペーパーみたいな軽いものが多かった。これを閉店時間までずっと続けている。
「ごめんなさいねぇ、このメーカーの石鹸はどこかしら?」
不意に後ろから声をかけられて振り返る。ご年配の女性が握りしめているメモ用紙を見せながら聞いてきた。しわくちゃになったそれを見る限り、随分と探していたらしい。
「えっと……少々お待ち下さい」
アルバイトを始めたばかりの頃に渡された配置図で石鹸コーナーを探す。じっと手元を見られているせいか、手が震えてうまく開かない。なんとか見つけて顔を上げると、すぐ近くの棚に陳列していた。屈まないと取れない一番下の棚の片隅に、薄っすらと埃を被った固形石鹸が置かれていた。
「こ、ここでした……」
「あら、気付かなかったわ! ありがとう」
「いえ、……その、すぐ見つけられなくて――」
「あとお弁当に入れる爪楊枝も探していただける? 可愛いのがいいんだけど」
「あ、は、はい!」
住んでいる場所が田舎ということもあって、訪れる人の年齢層は広い。この女性のようにフレンドリーに話しかけてくれることも日常茶飯事だ。そして何より常連客が多く、ご近所さんも利用していることから、接客対応がしどろもどろになる私には少しばかり余裕ができる。
なんとか爪楊枝も見つけて渡すと、女性はまた「ありがとう」とふわりと笑ってレジの方へ行ってしまった。これで買い物リストは制覇したらしい。
すると、入れ違いでアルバイトの先輩がズカズカとこちらにやってきた。年齢は私の一個上で、通っている高校も近いから電車でも遭遇するけど、まともに話したことはない。見るからに不機嫌そうで、なんとなく怒られるのだと察した。
「高田さん、補充が間に合ってないんだけど」
「す……すみません、お客様対応していて」
「ふーん……ろくに話せないくせに?」
「…………」
「どうせサボっていたんでしょ? パートのおばちゃんたちは騙せても、私は信用してないから。さっさと仕事戻ってよね」
そう言って先輩は踵を翻して陳列中の棚を整理始めた。私が出勤してからずっと同じ棚の整理をして、時々同じ学校のバイト仲間と駄弁っているところしか見ていない。話が盛り上がって騒いでいるのをお客様が見ていてクレームが入ったことも、きっと見て見ぬふりしているのだろう。
先輩がまたお喋りに参加したのを見届けてから、私は頭の中でアズの曲を流しつつ、日用品の陳列作業に戻った。