『アーティスト・アズ主催の合同ライブ、大成功! ライブハウスは今後も経営継続へ』
ライブを終えた三日後、ネットニュースで話題に上がったのは、やはりアズのことだった。
なんでも、取材した記者はあのライブで初めてアズの楽曲に惚れ込んだようで、楽曲を中心にアズを徹底的に調べ上げたらしい。
特に「この曲のAメロから続く低音で安定を保ちつつ、サビに入った途端に鐘のように響く高音がたまらない」「エッジボイスが聞いた粗っぽい歌い方も魅力的で――」など、まるでファンの参考書のような内容の記事で、「よく上の許可が下りたな」と感心する声が多く話題を呼んでいた。アズを知らない人からしたら、戯言にも聞こえるのかもしれない。
ただ、何も知らなかった一人の人間がここまで調べ上げ、多くの人の目に映るネットの世界へ発信したという事実は、アズのこれまでの行いや人柄、努力によるものだと改めて実感する。
私の推しは、妬けてしまうほど人たらしで、魅力的で、最強らしい。
「高田、やっぱりここにいたか」
図書室でネット記事を見ていると、若槻くんがやってきた。「授業を抜け出すのが大変でさぁ」と、わざとらしく大きな溜息をついて私の隣に座る。
ライブ後の登校日は憂鬱で、家から出たくなかった。これがロスというらしい。
未だアズがこの世を去ったことを信じたくない自分がいて、またしばらく保健室登校をしてしまおうかと頭をよぎったけれど、ヘッドフォンから変わらずアズの歌が聞こえてくると、やっぱりこのままじゃだめだと、気付いたら制服に着替えていた。
それを若槻くんに話すと、ニッと笑って言う。
「俺も同じこと考えていたんだ。アズに依存しているみたいだけど、今までもらってきたものを全部、無下にするわけにはいかないからな」
「……そうだね」
窓の外はアズが好きな色が快晴の空が広がっていた。
あの人が作った歌が、曲が、世界中に広まっていく。
それがアズの生きた証なら、私は証明していきたい。
誰かが言っていた。『人は二度死ぬ。一度目は肉体の死、二度目は人々の心から忘れ去られたとき』だと。『永遠なんてない』のだと。
でも、アズのたくさんの楽曲がこれからも後世に伝わっていけば、それはそれで永遠でしょう?
「アズ! 私、あなたのおかげで生きてるよ!」
授業中などお構いなしに私は窓を開けて叫んだ。隣にいた若槻くんが驚いた顔をしたけど、私の目線の先を見て納得したように笑う。
広がるのは夏の快晴の日の抜けるような、きれいな群青色の空。
空の上で新しい歌でも作っているんじゃないかと思うと、愛おしくてたまらなかった。
【それは群青の空だった】 完
ライブを終えた三日後、ネットニュースで話題に上がったのは、やはりアズのことだった。
なんでも、取材した記者はあのライブで初めてアズの楽曲に惚れ込んだようで、楽曲を中心にアズを徹底的に調べ上げたらしい。
特に「この曲のAメロから続く低音で安定を保ちつつ、サビに入った途端に鐘のように響く高音がたまらない」「エッジボイスが聞いた粗っぽい歌い方も魅力的で――」など、まるでファンの参考書のような内容の記事で、「よく上の許可が下りたな」と感心する声が多く話題を呼んでいた。アズを知らない人からしたら、戯言にも聞こえるのかもしれない。
ただ、何も知らなかった一人の人間がここまで調べ上げ、多くの人の目に映るネットの世界へ発信したという事実は、アズのこれまでの行いや人柄、努力によるものだと改めて実感する。
私の推しは、妬けてしまうほど人たらしで、魅力的で、最強らしい。
「高田、やっぱりここにいたか」
図書室でネット記事を見ていると、若槻くんがやってきた。「授業を抜け出すのが大変でさぁ」と、わざとらしく大きな溜息をついて私の隣に座る。
ライブ後の登校日は憂鬱で、家から出たくなかった。これがロスというらしい。
未だアズがこの世を去ったことを信じたくない自分がいて、またしばらく保健室登校をしてしまおうかと頭をよぎったけれど、ヘッドフォンから変わらずアズの歌が聞こえてくると、やっぱりこのままじゃだめだと、気付いたら制服に着替えていた。
それを若槻くんに話すと、ニッと笑って言う。
「俺も同じこと考えていたんだ。アズに依存しているみたいだけど、今までもらってきたものを全部、無下にするわけにはいかないからな」
「……そうだね」
窓の外はアズが好きな色が快晴の空が広がっていた。
あの人が作った歌が、曲が、世界中に広まっていく。
それがアズの生きた証なら、私は証明していきたい。
誰かが言っていた。『人は二度死ぬ。一度目は肉体の死、二度目は人々の心から忘れ去られたとき』だと。『永遠なんてない』のだと。
でも、アズのたくさんの楽曲がこれからも後世に伝わっていけば、それはそれで永遠でしょう?
「アズ! 私、あなたのおかげで生きてるよ!」
授業中などお構いなしに私は窓を開けて叫んだ。隣にいた若槻くんが驚いた顔をしたけど、私の目線の先を見て納得したように笑う。
広がるのは夏の快晴の日の抜けるような、きれいな群青色の空。
空の上で新しい歌でも作っているんじゃないかと思うと、愛おしくてたまらなかった。
【それは群青の空だった】 完