非公開で作ったオリジナルの再生リスト「群青ソーダ」をタップすれば、歌ってみたと題された動画や公式MV、ライブ映像の数々が表示される。最初に出てきた曲を再生すると、私は毛布を頭まで被って目を閉じ、イヤフォンから流れてくる音に集中した。

 失恋の歌詞が並べられながらも、可愛らしいポップな曲調が寂しさを埋めてくれる。動画の備考欄には「好きな人に振られたから、気分だけでも明るくしたくて」とヤケクソの中で歌ったことが綴られていた。転調で声が裏返るところも、まだ声変わり直後で歌い慣れない幼気な声に思わず聴き入った。

 その人は、数年経った今も力強くて優しい歌声で魅了し、ライブでは転調するところで裏返ってしまうお茶目な部分を発揮する。その映像は世界中の人が見ている動画サイトに投稿され、恥ずかしそうに顔をそむけた姿が生配信中に流れた。全てが愛おしい。
 愛おしかった。

 突然、音楽が止まった。スマホの充電が完全に切れたらしい。予備だと思っていた充電コードも線が切れていたようだ。

 私はイヤフォンを外して枕の横に放った。本当は耳をふさぎたかったけど、起き上がって机の上に置かれたヘッドフォンを取りに行く気力はない。

「……アズ」

 今の私には、何一つ受け入れられない。考えるのも嫌になってそっと目を閉じる。現実は変わらないのに、これが嘘であってほしいとありもしない未来に縋ってしまう。

 ――どうしようもなく、あなたに会いたい。

 暗闇の中で、大きな粒が窓を叩きつける雨音だけが響いた。