『――本日はアズ主催の合同ライブにご来場いただき、誠にありがとうございます。アズは僕らに、歌ってほしいと言ってこのライブを持ち掛けてきました。皆さんに楽しんでほしいと、ここにいる誰よりも願っていると思います。……追悼なんて言葉が似合わないくらい、大きな声を出して、笑って、騒いで、存分に歌ってやりましょう!』

 彼の一声で、ライブが始まった。バンドメンバーがそろっと出てくると、圧倒的な演奏力で会場を湧かせ、一気にアズが作曲したデビュー曲を披露する。
 更に別のアーティストが次々と登場し、披露していく。どれもアズが関わった曲ばかりで、なんて贅沢なメドレーだと歓喜した。
 ステージ上にいるバンドメンバーが滴るほどの汗をかきながらも、手を緩めることはない。アーティストが「手を挙げて」と言えば、会場中に青い蛍光ブレスレットが浮かび上がって揺れ動く。
 一面の深い青――群青色に埋め尽くされたこの光景に、思わず息を呑んだ。

 アズが自分で作詞作曲から歌まで手がけた曲を歌い手たちがカバーすると、ステージ上のスクリーンにMVが一緒に流れる。まるで一緒に歌っているかのようで、泣きそうになるのを押さえて、声を出すことで紛らわせる。会場にいるほとんどの人が、今にも泣きそうな顔をしていた。

 ああ、なんで私はもっと早くここに来られなかったんだろう。
 こんな素晴らしい空間にもっと早く出会っていれば、もっと早く一歩踏み出していれば、アズと一緒にここに居られたかもしれない。

 アズがこの世を去る前に、一緒の時間を共有することだってできたはずなのに!

「……っ!」

 生きていてほしかった。また新しい歌を聴かせてほしかった。
 私の生きる意味、存在理由――私のすべてだった。
 あなたが好き。あなたが大好きだった。

 でももう届かない。アズは、もうこの世にいない。

 胸の内からあふれてくる苛立ちと後悔から、ふいに涙がこぼれる。袖口で拭っていると、横で若槻くんの目も潤んでいることに気付いた。
 それでもこの一瞬を記憶に焼き付けるように、パフォーマンスに耳を傾けている。彼の個性である聴覚は、この瞬間を待っていたのかもしれない。

 予定していた二時間が経過し、いよいよフィナーレを迎えようとしていた。
 歌い終えたアーティスト全員がステージ上に出てくると、最初に挨拶をした男性が口を開く。

『本日はありがとうございました! 最後の曲の前に、ある人物からメッセージを預かっています。……僕らも何も聞かされていなくて、ちょっと困惑しています。誰も検討がつかないや』

 それでは、どうぞ。と声に合わせて照明が暗くなり、スクリーンに映し出された。
 白い部屋のなかで、青のパーカーを来た誰かがマイクスタンドの高さを調節している。顔は画面の外にあるため見えない。困惑する声が会場内で囁かれる中、しばらくして椅子を引く音が聴こえたかと思えば、パーカーの人物は一度咳払いをした。

『あ、あー……聴こえていますか?』

 私は目を見開いた。
 私だけじゃない、会場にいる全員が悲鳴を上げてスクリーンに映る人物に目を向ける。

 ずっと聞いていた。ずっと聞きかかった、アズの声だった。