*

 ――その日から、食事とお風呂の時以外、部屋に引きこもるようになった。梅雨前線が迫ってきたが為に訪れる頭痛が例年よりも酷く、食べたものを吐き出してしまうほど苦痛に苛まれる。すべて天気の所為にしてしまえば、どれほど楽だろう。

 アズはもう、この世にいない。
 記事が出たその数時間後、アズのSNSとホームページから正式にアズが亡くなったことを知らされた。病死だった。
 突然のことでスタッフ一同、誰もが現実を受け止めきれない状況だと、淡々と綴られた言葉がとても無機質に見える。SNSでもアズの名前がトレンドに上がり、多くの人がアズを讃え、追悼した。アズが投稿した動画には「ここにくればアズに会える」「今までありがとう」といった言葉が並べられていた。動画の中のアズは今も確かに歌っているのに、どんどん増えていく再生回数が物語っている。

「推しがいなくなったら、生きていけない」と言うのがよくわかる。
 私は何か決断するとき、新しいことに挑戦しようとするとき、いつもアズの声に、歌に背中を押してもらっていた。アズがいたから今日まで生きてこられたことに変わりはない。信じられなくて枯れていた涙も、気付けばボロボロとこぼれた。遠くで見ているだけで、画面越しで見ているだけで充分だったはずなのに、胸の真ん中にぽっかりと開いた穴が何をしても埋まらない。

 二週間もろくに人と話すこともなく、大好きな曲さえも聴けない。お気に入りのヘッドフォンは机に投げっぱなしだ。ただただ窓を叩きつける雨音の中、布団に潜って聴こえないフリを続け、気付けば六月を終えていた。