突然入ってきたニュースの速報でアズの名前が目に入った後のことは、よく覚えていない。

 何となく思い出せるのは、持っていたマグカップを床に落として、温めたホットミルクが破片と共に散らばったことだ。素足にかかったようで、赤く腫れあがったのに何も感じられなかった。
 割れた音を聞きつけてやってきた母が、慌てて私を座らせてタオルと保冷剤を持ってくる。私は画面をじっと見つめていた。その間にも母は床を片付け、火傷の具合を尋ねる。
 私はなにもせず、何も答えず、ただ黙ったまま画面を見ていた。
 呆れた母が強引にスマホを奪って表示された記事を見る。眉をひそめ、不思議な顔をしていた。

「日和、これって……」
「いわないで‼」

 信じられない。信じたくない。

 今も首に下げたヘッドフォンから、あなたの歌が聞こえるのに。
 最近上手くいかないこともあったけど、もう一回頑張るって教えてくれたのはあなただった。
 新しい曲も準備してライブをしているときが一番楽しいって言ってくれたのも、来たことがない人はぜひ来てほしいって、顔なんてわからなくても、画面の向こうにいるのは確かにあなただったのに。

「……っ、死にたい」

 顔を埋め、その場に倒れ込む。遠くで母の声が聞こえるけど応じる気力もなく、だんだん意識が薄れていった。このまま永遠の眠りについたなら、あなたに会えるだろうか。

 ああ、死にたい。