何の気なしに動画サイトを開いたところ、有名な曲名の後に「歌ってみた」と記載されていた動画を誤ってタップしてしまったのがきっかけだった。
 伴奏からしばらくして歌声が流れてきた中性的な声色。優しくも力強く訴える歌唱力の高さに、私は気付けば涙を流していた。
 曲自体を自分が歌いやすいようにキーをいじったわけでもなく、本当に声を自由自在に扱っている。歌う人が違うだけでこんなにも捉え方が変わるなんてと感動すら覚えた。
 それからアズについて調べていくうちに、正体を一向に明かさないことで「あの声は作り物だ! 曲によって声が変えられるなんて在り得ない!」と叩かれていることを知った。

『自分も人だから、生きていることが嫌いになる時もある。でももう一回、もう一回頑張ろうって思えば、案外自分が思っていることがアホらしく見えちゃうんだよね』

 もう一回――それがアズの口癖だった。アズの力強くて儚げな歌声が乗ったあの歌がかけがえのない応援歌となったように、アズの言葉に私は救われたのだ。