ヘッドフォンをつけたままリビングに行くと、母が呆れた顔でこちらを見ていた。

「日和、おかえり。また聴きながら帰ってきたのね? 危ないって言ってるのに」
「人通りが多いところを通ってるから大丈夫だって」
「まったく……。夕飯、カレーなんだけど自分でよそってくれる? お風呂入っちゃうから」
「うん。ありがとう」

 荷物を置いて、母と入れ替わりでキッチンに立つ。鍋に入ったカレーを温めている間、アズの生配信は後半戦に差し掛かっていた。カレーの良い香りに誘われてお腹が鳴る。ごはんをよそった皿に、具材がごろごろと入ったカレーをかけたところで、スマホの画面に動きがあった。

『――さて、それでは今日の重大告知のお話をしようかな』
「……へぇっ!? ちょ、ちょっと待って!」

 ヘッドフォンから聴こえた言葉に、慌ててカレーを盛った皿をテーブルの上に置いた。そしてスマホをスタンドに乗せて、食い入るように画面に集中する。

『実は……』
「……っ!?」

 溜めて、溜めて、溜めて。アズが告知をするときはいつもリスナーを焦らす。こっちは息を止めてしまうほど待ち構えてしまうし、チャット欄は「なになに?」「早く!」「まさか……!?」と急かすコメントが増える。

『――なんと、七月にライブが決定しました!』

 その言葉を聞いた途端、チャット欄が一瞬で早送りのようにコメントが流れていく。目で追えないし、アズ自身も嬉しそうに『うわっ! コメントやばい!』と笑っていた。
 これが見たくて溜めてたんじゃないのって、問いただしたくなる。