☆……孫の悠希視点
「○年7月7日
未希・悠希へ……」
おばあちゃんの子育て日記の最後のページに、それは残されていた。
それはまるで今日、自分が死ぬと分かっているかのような文章……
祖母の命日である七夕に、私は母と一緒に思い出の日記を久し振りに読み返していた。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
『子育て日記』
「未希へ」
あなたにはいつも心配ばかりかけてしまってごめんなさい。
ちゃんとお別れができなかった代わりに、私の宝物の子育て日記を贈ります。
あなたを身籠る前、私はつらいことばかりで自分が無意味な存在だと思っていました。
でも、あなたの存在がそんな日々を変えてくれました。
まるで天使の梯子、雨上がりの空から差した希望の光みたいに……
小さい時、甘えん坊なあなたはいつも抱っこをせがんでいましたね。
いつも困り顔で抱き上げていたけれど、本当はずっと離したくなかった……
抱き締めてもらっていたのは私の方でした。
こんなダメな母親に何度も大好きと言ってくれてありがとう。
何度も抱き締めてくれてありがとう。
私の所に生まれてきてくれてありがとう。
あなたといる日々が、
あなたがいる世界が、
一番の宝物でした。
この子育て日記に書かれた全ての出来事が愛おしかった。
あなたを抱き締める度、心臓の音が聞こえる度、涙が出そうになる位うれしかった。
あなたは小さい頃から、貰ったおやつを半分分けて私にくれようとする優しい子でした。
そんなあなたの笑顔に、明るさに何度も救われていました。
だからその笑顔をずっと忘れないで……
これからも沢山の人を幸せにしてね。
あなたがどのくらい大切だったかが、子育て日記に書いてあるので読んでもらえたらうれしいです。
「悠希へ」
あなたには日記がない分、長めになってしまうけれど……
あなたとは昔から不思議な奇跡で繋がっている気がします。
名前といい、誕生日といい……
実は、あなたの誕生日は、私とおじいさんが大学で出会うきっかけになった『君の声』という小説の作家さんと同じ誕生日でした。
そして、もう一つの大切な始まりの日でもあります。
初めてできた近所の友達や初恋の子の誕生日を聞いた時も、
私の時とそれぞれ同じ誕生日で驚きました。
そして、あなたが「音大を諦める」と言った時……
学校でイジメられて「もう死にたい」と言った時……
昔の自分を見ている気がしてつらかった。
この子には私がしたような思いを絶対にさせたくないと思った。
ハルちゃんは昔から、優し過ぎて自分の気持ちを後回しにしてしまう子だったけれど……
もっと自由になっていいの。
もっと自分の好きに生きていいの。
これからは伝えたいことは我慢せず、自分の気持ちに素直になりなさい。
思ったことはすぐ伝えなさい。
でないと後で後悔することになるから……
音大の夢も応援しています。
音楽は贅沢な遊び、災害や非常時には無力と言う人がいるけれど……
音楽は人を励まし、絶望の中でも歩きだそうと思える勇気をくれる。
人種や言葉が違っても音楽なら世界中の人とも繋がることができる。
歌は、その意味が届いた時、沢山の人の心を一つにしてくれます。
実はおばあちゃんも昔、作曲をしていて『君の声』という歌を作りました。
結局、誰にも届かなかった「誰も知らない歌」だけれど……
その中で「願わないと決めた」という言葉があるけれど、それは間違いだということに、あなたのおかげで気が付きました。
あなたが小学生の頃のこと……
七夕の短冊で「世界中の人達が幸せになりますように」と書いた理由を聞いた時、
自分のことより他人の幸せを願う小さな背中を見て涙が溢れました。
そして、この世界は沢山の人の思いや願いで出来ていたんだと気付いたの。
世界中みんな自分のことだけ考えていたら、とっくの昔に世界は滅んでいたでしょうね。
たとえ自分が消えたとしても、誰かの幸せを願った人達がいたから今がある。
日本にも今まで色々な困難があったけれど、何度も乗り越えて来られたのは、その気持ちがあったから……
そして、あなたのような子がいるこの世界は、これからもきっと大丈夫。
そう信じることができました。
だからこれからどんな事があっても、幸せを願うことを忘れないで下さい。
もちろん自分の幸せもね。
私も昔、大切なことをある人達に教えてもらったおかげで、
悠《はる》かな希望を忘れず、一つの幸せを信じようと思うことができました。
あなたの名前には無限の可能性が込められています。
もし自分に自信をなくしたり、夢を諦めようとしていたら、この言葉を思い出して下さい。
「あなたなら絶対に大丈夫」
昔ある人に貰った宝物の言葉です。
大丈夫……他人の幸せを願えるあなたの音楽なら必ず誰かに伝わるわ。
それから約束して欲しいことがあります。
自分で自分を傷つけないこと。
悪意を持って人を傷つけないこと。
それからもう一つ………
どんなにつらいことがあっても、絶対に自分から死のうとしないこと。
もしもの時は思い出してね。
お母さんがどんな思いであなたを生んだか……
あなたがどんなに沢山の奇跡を乗り越えて生まれてきた存在か……
この世界は奇跡でできている……
私は沢山の奇跡に出会ってきました。
あなたがいなかったら、この世に生まれなかったものがあるの。
だから自分で死んではいけないの。
あなたは幸せになるために、
いつか誰かを幸せにするために生まれてきたんだから。
諦めずに生きていれば、
会えてよかった……そう想い合える人に必ず出会えます。
つらいことにも意味がある、悲しみや苦しみがあったからこそ生まれた幸せがある……
そう思える時が必ず来ます。
つらい時は約束を思い出して下さい。
私も昔、奇跡みたいな約束をしたおかげで今日まで生きてこられました。
約束は未来を繋いでくれる希望でもあるの。
その約束が叶うかどうかは分からないけれど……信じてみようと思います。
ハルちゃん
恥ずかしがり屋のあなたの、はにかんだ笑顔が好きでした。
未希
あなたのいる世界にいられて、その未来を選んで本当によかった。
二人の笑顔が私の幸せでした。
だから離れていても、あなた達のそばにいます。
寂しくなった時は、空を見上げてみて下さい。
昔『空を見上げて』という曲をきっかけに『明日への希望』という歌が生まれたそうです。
「空を見上げて微笑むだけで、こんなにも世界が繋がっていくから……」
「どんな時でも諦めなければ、こんなにも未来が繋がっていくから……」
世界中に色んな人がいて、どんなに思いや言葉がすれ違っても、私達の空が一つに繋がっているように……
空を見上げれば、ずっと先の未来まで通じ合える気がします。
あなた達の存在が私にとっての「明日への希望」でした。
今までありがとう。
一緒にいられて信じられない位……
本当に私は幸せ者でした。
いつまでも元気でいてね。
長い日記の最後になりますが……
生まれてきてくれて、
一緒に笑ってくれて、
本当にありがとう。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
日記のカバーの内側には、母が子供の頃に書いたであろう「ママ大好きだよ」というメモや広告の切れ端が沢山と、私が小さい頃に書いた短冊が挟まっていた。
それを見て堪えきれなくなった母の背中を擦りながら、二人で抱き合って泣いた。
祖母との思い出を噛み締めながら……
そして、母が知らないもう一つの最後の日記を読んで知った真実を言うべきか迷いながら……
「○年7月7日
未希・悠希へ……」
おばあちゃんの子育て日記の最後のページに、それは残されていた。
それはまるで今日、自分が死ぬと分かっているかのような文章……
祖母の命日である七夕に、私は母と一緒に思い出の日記を久し振りに読み返していた。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
『子育て日記』
「未希へ」
あなたにはいつも心配ばかりかけてしまってごめんなさい。
ちゃんとお別れができなかった代わりに、私の宝物の子育て日記を贈ります。
あなたを身籠る前、私はつらいことばかりで自分が無意味な存在だと思っていました。
でも、あなたの存在がそんな日々を変えてくれました。
まるで天使の梯子、雨上がりの空から差した希望の光みたいに……
小さい時、甘えん坊なあなたはいつも抱っこをせがんでいましたね。
いつも困り顔で抱き上げていたけれど、本当はずっと離したくなかった……
抱き締めてもらっていたのは私の方でした。
こんなダメな母親に何度も大好きと言ってくれてありがとう。
何度も抱き締めてくれてありがとう。
私の所に生まれてきてくれてありがとう。
あなたといる日々が、
あなたがいる世界が、
一番の宝物でした。
この子育て日記に書かれた全ての出来事が愛おしかった。
あなたを抱き締める度、心臓の音が聞こえる度、涙が出そうになる位うれしかった。
あなたは小さい頃から、貰ったおやつを半分分けて私にくれようとする優しい子でした。
そんなあなたの笑顔に、明るさに何度も救われていました。
だからその笑顔をずっと忘れないで……
これからも沢山の人を幸せにしてね。
あなたがどのくらい大切だったかが、子育て日記に書いてあるので読んでもらえたらうれしいです。
「悠希へ」
あなたには日記がない分、長めになってしまうけれど……
あなたとは昔から不思議な奇跡で繋がっている気がします。
名前といい、誕生日といい……
実は、あなたの誕生日は、私とおじいさんが大学で出会うきっかけになった『君の声』という小説の作家さんと同じ誕生日でした。
そして、もう一つの大切な始まりの日でもあります。
初めてできた近所の友達や初恋の子の誕生日を聞いた時も、
私の時とそれぞれ同じ誕生日で驚きました。
そして、あなたが「音大を諦める」と言った時……
学校でイジメられて「もう死にたい」と言った時……
昔の自分を見ている気がしてつらかった。
この子には私がしたような思いを絶対にさせたくないと思った。
ハルちゃんは昔から、優し過ぎて自分の気持ちを後回しにしてしまう子だったけれど……
もっと自由になっていいの。
もっと自分の好きに生きていいの。
これからは伝えたいことは我慢せず、自分の気持ちに素直になりなさい。
思ったことはすぐ伝えなさい。
でないと後で後悔することになるから……
音大の夢も応援しています。
音楽は贅沢な遊び、災害や非常時には無力と言う人がいるけれど……
音楽は人を励まし、絶望の中でも歩きだそうと思える勇気をくれる。
人種や言葉が違っても音楽なら世界中の人とも繋がることができる。
歌は、その意味が届いた時、沢山の人の心を一つにしてくれます。
実はおばあちゃんも昔、作曲をしていて『君の声』という歌を作りました。
結局、誰にも届かなかった「誰も知らない歌」だけれど……
その中で「願わないと決めた」という言葉があるけれど、それは間違いだということに、あなたのおかげで気が付きました。
あなたが小学生の頃のこと……
七夕の短冊で「世界中の人達が幸せになりますように」と書いた理由を聞いた時、
自分のことより他人の幸せを願う小さな背中を見て涙が溢れました。
そして、この世界は沢山の人の思いや願いで出来ていたんだと気付いたの。
世界中みんな自分のことだけ考えていたら、とっくの昔に世界は滅んでいたでしょうね。
たとえ自分が消えたとしても、誰かの幸せを願った人達がいたから今がある。
日本にも今まで色々な困難があったけれど、何度も乗り越えて来られたのは、その気持ちがあったから……
そして、あなたのような子がいるこの世界は、これからもきっと大丈夫。
そう信じることができました。
だからこれからどんな事があっても、幸せを願うことを忘れないで下さい。
もちろん自分の幸せもね。
私も昔、大切なことをある人達に教えてもらったおかげで、
悠《はる》かな希望を忘れず、一つの幸せを信じようと思うことができました。
あなたの名前には無限の可能性が込められています。
もし自分に自信をなくしたり、夢を諦めようとしていたら、この言葉を思い出して下さい。
「あなたなら絶対に大丈夫」
昔ある人に貰った宝物の言葉です。
大丈夫……他人の幸せを願えるあなたの音楽なら必ず誰かに伝わるわ。
それから約束して欲しいことがあります。
自分で自分を傷つけないこと。
悪意を持って人を傷つけないこと。
それからもう一つ………
どんなにつらいことがあっても、絶対に自分から死のうとしないこと。
もしもの時は思い出してね。
お母さんがどんな思いであなたを生んだか……
あなたがどんなに沢山の奇跡を乗り越えて生まれてきた存在か……
この世界は奇跡でできている……
私は沢山の奇跡に出会ってきました。
あなたがいなかったら、この世に生まれなかったものがあるの。
だから自分で死んではいけないの。
あなたは幸せになるために、
いつか誰かを幸せにするために生まれてきたんだから。
諦めずに生きていれば、
会えてよかった……そう想い合える人に必ず出会えます。
つらいことにも意味がある、悲しみや苦しみがあったからこそ生まれた幸せがある……
そう思える時が必ず来ます。
つらい時は約束を思い出して下さい。
私も昔、奇跡みたいな約束をしたおかげで今日まで生きてこられました。
約束は未来を繋いでくれる希望でもあるの。
その約束が叶うかどうかは分からないけれど……信じてみようと思います。
ハルちゃん
恥ずかしがり屋のあなたの、はにかんだ笑顔が好きでした。
未希
あなたのいる世界にいられて、その未来を選んで本当によかった。
二人の笑顔が私の幸せでした。
だから離れていても、あなた達のそばにいます。
寂しくなった時は、空を見上げてみて下さい。
昔『空を見上げて』という曲をきっかけに『明日への希望』という歌が生まれたそうです。
「空を見上げて微笑むだけで、こんなにも世界が繋がっていくから……」
「どんな時でも諦めなければ、こんなにも未来が繋がっていくから……」
世界中に色んな人がいて、どんなに思いや言葉がすれ違っても、私達の空が一つに繋がっているように……
空を見上げれば、ずっと先の未来まで通じ合える気がします。
あなた達の存在が私にとっての「明日への希望」でした。
今までありがとう。
一緒にいられて信じられない位……
本当に私は幸せ者でした。
いつまでも元気でいてね。
長い日記の最後になりますが……
生まれてきてくれて、
一緒に笑ってくれて、
本当にありがとう。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
日記のカバーの内側には、母が子供の頃に書いたであろう「ママ大好きだよ」というメモや広告の切れ端が沢山と、私が小さい頃に書いた短冊が挟まっていた。
それを見て堪えきれなくなった母の背中を擦りながら、二人で抱き合って泣いた。
祖母との思い出を噛み締めながら……
そして、母が知らないもう一つの最後の日記を読んで知った真実を言うべきか迷いながら……