「あら、猫ちゃん。見かけない顔ね。どこから来たの?」

 私に気がついた彼女が膝を折って、手を差し伸べる。骨ばってかさついた、彼女のみじめな人生が目に浮かぶような手だった。

 年の頃は、雪為の妻となる女とそう変わらないように見える。

 本当に、人間の世とは残酷なものねぇ。

 彼女たちの境遇の差に、心を痛める……なんてことは、もちろんしない。

 私の知ったことではないし、なにより今日この日よりふたりの立場は逆転するだろうから。

 静かになった異形たちに、雪為が気づかぬはずはない。

「誰だっ」

 予想どおり、障子を開け放った彼が、私たちのいる庭に鋭い声を投げてきた。

 この場にいるのは、私とゴボウのような少女だけ。

「まさか……本当に……」

 雪為はおおいに困惑していた。

 命姫の登場になのか、それともやっと現れた運命の女の貧相さにか、それは私にはわからない。

「申し訳ありません。騒がしかったでしょうか」

 意外なほど凜とした声で、少女は言った。身分のない娘にしては、物怖じすることもなく堂々としている。

 ふむふむ、あっちの媚び売り女よりは上等じゃない。