「にゃあん」

 雪為の背を見送った私は、また猫の姿を取って、音もなくすべるように走り出す。もちろん、彼の妻とやらをこの目でしかと見るためだ。

 私は人間の命などもらわなくても、永遠(とわ)を有する最強の異形だけれど……だからこそ退屈で仕方なかった。死へと向かう人間を観察すること以上の娯楽は、今のところ見つからない。
 
 ふむふむ、なるほど。

 東見との縁談が持ちあがるだけのことはある立派な家だった。

 紫道(しどう)という華族らしい。

 庭で日向ぼっこをする猫に擬態して、私は彼らの様子を眺めている。

 雪為の妻となる女はすぐにわかった。(とき)色の着物に身を包む若い女がそうだろう。
 ぱっちりとした二重瞼の、どちらかと言えば西洋風な顔立ちで、なかなかの美人だ。

 でも……残念ながら、外れ。

 ――お気の毒さまねぇ。

 私はニヤニヤと雪為を眺めている。

 彼は退屈しきっていた。気に入られようと、懸命に媚びを売る女を興味なさげに一瞥し、あろうことかあくびを漏らした。

 だが、そんな態度を取られても女はめげない。東見の名と財産にはそれだけの価値があるから。