それから、時代はまた流れ、元号も幾度か変わった。

 今は荒廃した国を、なんとか立て直そうとみなが必死になっているときだ。

 この国が大戦で敗けた遠因を作ったのは、雪為だったのか……それは私にはあずかり知らぬこと。

〝先見〟をやめてしまった東見家は、ひっそりとその力を失っていき、いつの間にか市井に埋もれた。

〝影の帝〟などというふたつ名は、もう誰も知らないだろう。

 異形たちは変わらず、そこでおしゃべりをしているのだろうけど、私にはもう彼らの声を聞くことはできない。

 あぁ、雪為と初音がその後どうなったかって?
 そうねぇ、私の口から語るのは、野暮というものじゃないかしら?

和子(かずこ)~。お父さまが帰っていらしたわよ」

 母親が私を呼ぶ。

 私の今の名前は、東分(とうぶ)和子。

 父親は小さな町工場を経営している。裕福でも貧乏でもない中流階級の娘だ。

 私は父親を出迎えるために母親と並んで玄関へと向かう。

 玄関先には細い姿見が置かれている。私はそこに映る自身の姿を見つめ、懐かしさに思わず目を細める。

 切れ長の目元には雪為の面影が、小さく丸い唇は初音を思い出させる。

 それもそのはず。

「ただいま。和子、出迎えをありがとう」

 そう言って私の頭を撫でるこの男は、雪為と初音の次男坊の息子。つまり和子はふたりの曾孫に当たる。

 彼らは余命を分け合う道を選んだ。その命は人より少しばかり短かったかもしれない。けれど、それはそれは見事に、鮮やかに輝いていた。

 そうして、私のこの身体には、あのふたりがつないだ命が、たしかに流れている。

               END