今見れば、すっかり時代遅れの着物と髪型だろうが、私の美貌は時代に左右されることのない本物だ。

『巴は絶世の美女だな。千年経っても、そなたより美しい女子は生まれないぞ』

 あの男は嘘ばかりついていたけれど、その言葉だけは真実だった。

 雪為は弱々しく笑む。

「あぁ、美しいな。初音によく似ている」

 私はふんと鼻白んだ。死にかけで、目も脳もおかしくなっているのだろう。

『初音のために死ぬ自分に酔いしれているの?』

 かつての自分がそうだった。

 本当にあの男を愛していたのなら、本性を見たあとでも知らぬふりで彼のために死んだはずだ。

 私は逃げようとした。それがすべてだ。

 雪為はちょっと考え込むそぶりをしてから、静かに返した。

「いや、自分のためだな。俺は弱い。初音を失ったあとの時間が恐ろしいのだ。永遠の地獄に耐える自信がない」

 時間という概念は不思議なものだ。

 愛し合うふたりにとっての一年は残酷なほどに短いけれど、憎み合うふたりの一年はそら恐ろしくなるほどに長い。

『初音は弱くないの?』

「あぁ、初音は強い。強いものが生き残るのは、すべての生き物の宿命だ」

 雪為は誇らしげに笑む。