だが、彼女には伝わらなかったようだ。

「雪為さまを守ってあげて。誰よりも優しいくせに、それを素直に出せない不器用な人なの。嘘が下手くそで……」

 初音はひとり言のように続ける。

「私にはわからない事情があったのね。だって、笑っちゃうのよ。屋敷を追い出されたときに持たされた風呂敷の中身、椿の押し花、キャラメル、ビードロの小皿。私が好きだと言ったものでいっぱいだった」

 白い頬を伝って、美しい水晶のような涙が流れ落ちていく。

「ニヤア」

 私はそう声をかけると、くるりと彼女に背を向けて歩き出す。

 少し進んだところで、初音と成匡を振り返る。

 初音は困惑げに小首をかしげた。

「ついてこいってこと?」

 それには答えず、速度をあげて走り出した。

 行き先はもちろん、あの不器用な男のもとだ。

 東見の屋敷を前にすると、初音はさすがにひるんだ様子だった。

 だが、私はそれには気づかぬふりで、屋敷の裏手にある抜け道から彼女を敷地内に通した。

 初音が小さく息をのむ気配を感じた。

 いつもふたりで腰かけて、笑い合っていた縁側。

 そこから眺めていた東見家自慢の庭園は打ち捨てられてしまったかのように、すっかり色あせている。

 美は儚いもの。

 憧憬の眼差しと称賛の声を失うと、すぐにしなびてしまう。