幸せを知ってしまったから、寂しさを感じる。未練がつのる。

 この苦しみすらも、彼から贈られたギフトなのだと初音はぎゅっと胸をつかむ。

 彼女は地面に膝をつき、愛する息子を優しく抱き締めた。

 成匡は父親似だ。

 私は一瞬、目の前で初音と雪為が抱き合っているのではないかと錯覚した。

「あなたのお父さまは罪作りよ。愛なんて、知らないままでいたら……こんなに苦しく思うこともなかったのに。あぁ、でも、それでも……」

 出会ったことに後悔はない、二度と会えなくてもずっとあなたを――。

 彼女らしい、まっすぐな想いが伝わってくるようだった。

 私はついと彼女の前まで歩み出る。

「え?」

 私の姿をみとめた初音は、目を丸くして驚いた。

「東見の、猫ちゃんよね?」

 私は答えない。
 
 黄金色の目を彼女に向けるだけだ。

 初音は少しの間を置いてから、私の顔をのぞきこむようにして手を伸ばした。

「ううん。あなたは猫ちゃんじゃないのよね。そうだなぁ……雪為さまの守り神! どう? 当たってる?」

 外れよ、そう言うように私は顎を反らす。