木枯らしの吹く晩秋。

 初音と成匡が屋敷を出て、もうじき二年になろうとしている。

 広いばかりでなにもないその部屋に、雪為はひっそりと佇んでいる。

 肉の落ちた細い肩、ヒューヒューと嫌な音を立てる喉、生気のなくなった肌に、もうなにも映さない瞳。

 遠目にも、彼の身体が蝕まれているのがわかる。

 余命はあと……半年もつかどうかといったところだろう。

 弱れば弱るほど、手ぐすねを引いて待っていた異形たちが彼を貪る。そして、雪為自身が彼らを歓迎し、受け入れてしまっている。

「どうか跡継ぎを……でなければ、成匡さまを呼び戻しくださいませ」

 日課のように、入れ替わり立ち替わりに訪れる者たちが、雪為に同じ言葉を繰り返し聞かせる。

「あいつは俺の息子ではない。なんの妖力も持たない役立たずだった」

「それでは、新たな跡継ぎを! 後継を残すのは、東見の当主の務めです」

「わかった、わかった。考えておく」
 
 雪為は億劫そうに片手を振る。

 障子の閉まる音を聞くとすぐに、彼は顔をゆがませ「ふはは」と声をあげて笑った。

「後継など残してたまるか。この国がそれで滅びるのならば、それまでのこと」