「過去の文献を調べた。命姫を見つけることのできる当主は何人でも探すことができるのだそうだ。俺は次の命姫を探す」

 その文献は、たった今、彼の頭のなかに現れたのだろう。

 初音は下唇をかみ、きっと鋭く彼を見据える。

「私の手を握り、ずっと一緒だと……あの言葉は嘘だったのですか」

 ふっと軽薄な笑みを浮かべて、雪為は初音を一瞥する。

「嘘ではない。この身体を流れる東見の血は、強い命姫に心惹かれるようにできているのだ。お前が弱ったら、それが消えた。本能を責められても……どうしようもないな」

 嘘の下手な男だ。

 ペラペラとしゃべればしゃべるほど、嘘は露呈しやすくなるものなのに。

 彼はそんなこともわからずに、嘘を重ね続けた。

 ――生きろ。お前に生きていてほしい。理由を説明する必要などないだろう。愛しているから。ほかになにがある?

 雪為の心の叫びが、私には、はっきりと聞こえてくる。

 なんて、つまらない男だろう。

 私をこんなにも失望させたのは、あの男と雪為だけだ。

 母子が暮らしに困らぬだけの金を握らせて、雪為はふたりを追い出した。当然、東見の連中は大反対だったが、彼はいっさいの聞く耳を持たなかった。