うっすらとしか陽光のささない埃っぽい蔵のなか。

 壁一面が書庫になっており、そこから雪為は何冊もの書物を取り出しては、読みあさっている。

「命姫を得た当主は栄華を極める。その記録は多く残るが、命姫本人のことには不自然なほど触れられていない」

 なにも不自然ではない。

 命姫は短命なのだ。嫁いできて、ひとりかふたり子を成したあとは、すぐに死んでしまう。

 語られるべき人生がないのだから、記録が残らないのも当然のこと。

 それに、語り部にとって都合の悪い歴史は抹消される。洋の東西を問わず、人間とはそういう生き物だ。

 理不尽なのは、命姫を失ったあとも、残された男のほうは長生きをすることだろう。

 もう異形を包んでもらうことはできなくなったはずなのに、異形たちは男から命を奪えなくなるのだ。

 それもまた、命姫の不思議な力のひとつなのか。

「初音の前の命姫はエド中期か。裕福な商家の娘、残した子は男がひとり。その前はセンゴク。その前は……」

 ブツブツとつぶやきながら、雪為は思考を巡らせている。

 初音は今日は寝台から起きあがれぬほどに体調が優れないようだ。

 ようやく、彼はひとつの事実に行きついた。