それから、また数か月。

 抱かれて泣くばかりだった成匡も、柱にしがみついて立ちあがることができるようになった。

 彼はあいかわらず私がお気に入りで、尻尾を振ってやるとケタケタと愉快そうに首を揺らす。

 雪為と初音は肩を寄せ合って、息子の成長に目を細める。

「そろそろ歩き出せそうだな。成匡は成長が早い」
「本当に。雪為さまに似て賢いみたいです」

 世の常とは言え……恋する女は盲目だ。

 雪為のどこが賢いと言うのか。こんなにも、鈍く、愚かな男だとなかなかいないだろうに。

 彼の肩のそっと寄りかかる初音の顔は青白く、彼女とこの世をつなぐ糸が細く頼りのないものになっているのが見てとれる。

 浅い呼吸にヒューという喘鳴が交じる。

「産後の肥立ちにしては……ずいぶんと回復に時間がかかるな」

 心配でたまらぬといった表情で、雪為は初音の細い背を撫でる。

「出産とは命を分け与える行為だと。女はみな、そうして命をつないできたのだと、イナさんが」

 イナは東見に長く仕えてきた老女だ。彼女自身、四人の子の母でもあるので経験から出た言葉だろう。

 初音は雪為を安心させるように、明るい笑顔を作った。

「そして、みなその後も元気に子どもを育てていると。なので、私も大丈夫ですよ」

 けれど、頼もしい言葉とは裏腹に彼女の笑顔は以前と比べるとずっと弱々しい。雪為は彼女に気づかれぬよう、顔を背けて眉尻をさげた。