「そうですよ。初めての夜、雪為さまは『子を成すのに必要のないこと』とおっしゃいました」

 雪為はなんとも言えない複雑な表情で、自身の顎を撫でている。

「たしかに、子を成す目的のためには必要のない行為だ」

 初音はかすかに肩を震わせ、意を決したように彼を見る。

「では、今の口づけは……なにかに必要だったのでしょうか」

 雪為はむっつりと押し黙る。それから、もったいぶるほどでもない答えを返す。

「さぁ……わからぬ」

 期待した言葉ではなかったようだが、ふいと顔を背けた彼の耳が赤く染まっているのをみとめて、初音はうれしそうにコロコロと笑った。

 その初音の笑顔をチラチラと盗み見ながら、雪為は言う。

「……同じだ」
「ん?」

 聞き取れなかったのか、初音は彼の顔をのぞくように首を傾ける。ふいうちで近づいた彼女の気配に、雪為はますます顔を紅潮させる。

 それでも、はっきりとした口調で言った。

「俺も、妻となったのがお前で……幸運だったと思っている」

 私は全身の毛がぞわりと逆立つのを感じた。

 あまりにも甘酸っぱくて、とても見ていられない。

「フギャ―」と抗議の声をあげて、縁の下に逃げ込んだ。

 理屈は知らないが、視る男と命姫は強く惹かれ合うらしい。

 初音の前に東見に来た命姫も、当主であった男と熱烈な恋に落ちた。

 その前の娘もだ。