「産後の不調がまだ取れぬようだな。滋養のあるものをきちんと食べているか?」
「はい、食事はいつもおいしいですよ」

 初音はにこりとするが、肌からも髪からもすっかり潤いが抜けていた。

「無理せず、養生しろ」
「ありがとうございます」

 言って、初音はいたずらっぽく目を輝かせた。

「初めて会ったときは、人間離れして見えて……正直怖かったんですが、雪為さまはとても優しい方でした。命姫とやらのことは、今もよくわかっていませんが、雪為さまの妻となれた私は幸運です」
「そうか」

 満更でもなさそうな顔で雪為はうなずく。

 見つめ合うふたりの顔がどちらからともなく、ゆっくりと近づく。そっと唇が重なり合い、ふたりは同時に目を閉じた。

 ぬくもりが離れると、初音がクスクスと童女のように笑い出した。

「なんだ?」
「口づけなんて……初めてしましたね。(しとね)のなかでも、したことないのに」
「はて、そうだったか」

 本当に自覚していないのか、白を切りとおそうとしているのか。

 だが、初音は情け容赦なく追い打ちをかける。