「子どもって、かわいいものなんですねぇ。初めて知りました」
「あぁ、俺も知らなかった」
「この屋敷に来てからは、初めてのことだらけです」
「そうか」

 初音に向ける雪為の眼差しは甘く、優しい。

「押し花という形で花の美しさをとどめておけることを知りましたし、亜米利加(アメリカ)から渡ってきたお菓子はおいしい! カステラもキャラメルもチョコレイトも絶品です」

 もう数えきれぬほどの〝好きなもの〟を見つけたと、初音はニコニコと雪為に報告する。

「カステラは南蛮菓子だから、先の時代からあったぞ。ドレスは好きじゃないのか? 着物も似合うが、快活な洋装は初音に合うと思うんだがな」

 ドレスをプレゼントしたい。

 そう素直に言えないところが雪為らしいところだ。

 初音は身を包む朱赤の着物をじっと見て、照れたように笑う。

「この着物は雪為さまからの初めての贈り物だから……無意識にこればかり選んでしまうんです」

 雪為は苦笑する。

「同じものばかり着ていると、擦り切れるぞ。わかった、ドレスでなく初音の好みそうな赤い着物をまた買ってやる」

 穏やかで優しい空気が、ふたりを包み込む。

 幸福を絵に描いたら、きっとこんな感じに仕上がることだろう。

 コホコホと、初音が乾いた咳をするのに、雪為は眉をひそめる。