「ところで……」

 雪為は初音の全身をまじまじと見る。

「お前はどうしていつも同じ着物なんだ? 使用人に頼んで、衣服はたくさん用意したはずだ。和服も洋装も」

 初音は自身の朱赤の着物に視線を落としつつ、ためらいがちに答える。

「雪為さまからいただいた異国の着物は素敵ですが……どうにも着慣れなくて」
「ではお前はなにが欲しい? あまりに慎ましすぎるのも、東見の奥方としては問題があるぞ」

 もっともらしいことを言っているけれど、ようするに雪為は初音になにかしてやりたいのだ。

 朴念仁だった男の変化を、私は日々楽しく観察している。本人に自覚がないのが、またおもしろいところだ。

 初音は難問に頭を悩ませているようだ。

「欲しいものと言われましても」
「では、今から探しに行こう」

 雪為は初音の手を引いて、屋敷の外へ繰り出していく。

 エドからトウキョウと名を変えたこの町は、この数十年で大きな変貌を遂げていた。

 西洋風の建物が目立つようになり、以前は表に出ることのなかった上流階級の婦人たちがドレスを着て闊歩している。

「うわぁ、豪華絢爛ですねぇ」
「にぎやかな場所は嫌いだったが、お前がいれば静かだからな」

 雪為はふっと笑む。人間はうるさいが、寄ってくる異形がいないだけで彼にとってはずいぶんと快適なのだろう。

「ほら、欲しいものを探せ」