だが、長くこの国を陰から支え、導いてきたのはそのペテンの力なのだ。

 当主の寿命と引き換えにしても……もはや〝先見〟をやめることはできないのだろう。

「そもそも異形って、なんなのでしょう? 幽霊?」

 好奇心に満ちた瞳で、初音は隣の彼を見あげる。

 ――まったく、失礼な娘だこと。

 異形は幽霊ではない。たしかに、その程度のものもいるけれど、もっと複雑で崇高な存在なのだ。

 ひなたぼっこ中の私がふんと鼻を鳴らしたのに気がついて、雪為はくすりと笑う。

「幽霊とはちと違うが……まぁ説明は難しいな」

 初音が理解できないのも無理はない。

 命姫とはまこと特殊な存在で……あれだけの妖力で、私を閉じ込めるほどだというのに、本人は異形を視ることも声を聞くこともできないらしい。

 今だって、彼女は私をただの野良猫だと思っている。この姿を解いてしまえば、たとえ着物の裾から忍び込んでも、気がつきもしないのだ。