初音という娘は、意図せずに、するりと人の懐に入り込んでしまうようなところがある。

 誰もが恐れる東見の当主が、こんな小娘に懐柔されていると思うとなんだかおかしかった。
 
 ふたりは庭に面した縁側に、並んで腰かける。

「視ていない。とは、どういう意味なのですか?」
「そのままだ。今日はそのへんにいた異形と他愛ない世間話をしただけ。生前はひどい腰痛に悩まされたとかなんとか……どうでもいいことを延々と聞かされた」
「腰痛……ですか」

 初音は不思議そうに首をかしげた。つまらなそうな顔で雪為は続ける。

「あの手のな、戦や商売の話は、視る必要もない。盛者必衰と昔から言うだろう?」

 さっぱりわからない。

 そう言いたげに眉尻をさげた初音に、雪為は説明をかみ砕く。

「うまくいくときもあるが、いずれは失敗する。それをもっともらしく伝えればいいこと」
「あぁ、だからああいう言い方なんですね!」

 瀬村はありがたがって神妙に聞いていたが、ようするに、雪為は『うまくいくときもあれば、そうでないときもある』という至極当然、外れるはずのない予言を授けたのだ。

「んん……それって、世に言うペテン師では?」

 初音も気がついたようだ。

 雪為は「ふはっ」と白い歯を見せて笑う。笑うことも、彼には珍しい。