自身の出生の秘密は口にするのもためらわれるのだろう。初音は唇を真一文字に引き結んでいる。

 静かな声で雪為は言う。

「そのことなら、知っている。詮索する気がなくとも、俺の耳には聞こえてくるから」
「知って?」

 初音は眉をひそめた。目の前の男は、やはり頭のネジが緩んでいる。そう確信したような顔だ。

 雪為はくっくっと、愉快そうに笑う。

「忌み子、結構なことじゃないか。我が東見家は長きに渡り、金と権力のために、おぞましい異形たちに憑りついてきた。この身体を流れる穢れきった血よりかは、お前のほうが綺麗だと思うぞ」
「え……」

 魔物に魅入られたかのように、初音は痩せすぎの身体を硬直させている。

 雪為は彼女の肩に両手を伸ばす。

「確かめてやろう」

 そうして、彼女の浮いた鎖骨のあたりにガリッと歯を立てる。

 血色の悪い青白い肌に、ぷつりと真っ赤な粒が浮かぶ。雪為は舌を出し、それをぺろりと舐め取る。

「ほら、甘くて清らかで……俺好みだ」

 どこか人間離れした、彼の妖しく美しい笑みを、初音はほうけたように見つめていた。