けろりと言う彼女に、彼はますます渋い顔になる。

 それを意に介さず初音は続ける。

「私のこの血を次代に継ぐのは、オススメできません」
「なぜだ? お前が美女でないことも、身体が貧相なのも俺は別に気にしないぞ」

 初音はためらうように視線を落とした。そのことに、私は少なからず驚いていた。

 どう見ても幸福そうではなかったのに、彼女の瞳はいつも強い光をたたえていて、こんなふうに暗い影を落としているところを見るのは初めてだからだ。

 かすかに唇をわななかせて、彼女は言った。

「私は忌み子です。この身体を流れる血はおぞましい」
 
 その言葉の意味を、私は多分知っている。

 彼女のいた、紫道家の異形たちの声を聞いたからだ。当然、雪為も承知の上だろう。

 初音の姓は紫道。彼女は下働きではなく紫道家の正統な娘。

 だが、清子の姉妹ではない。初音は清子の……イトコであり伯母でもある。

 そう、彼女は先代当主と彼の実の娘の間に生まれた子どもだ。

 みっともない醜聞を隠そうと、紫道家は彼女を『近所に捨てられていた赤子だ。不憫だから拾ってやり、下働きとして使っている』と世間に説明をしていた。

 実際には下働き以下の暮らしをさせられていたようだが……。