いつも通りのノックをしても返事がない。
病院は心做しか慌ただしい気がした。
「祈莉、入るよ」
ドアを開けてもそこにはだれもいなかった。
だれもいなかったしいつも祈莉が寝てるベッドもなかった。
本とか物はそのままだけど。
なんかちょっと嫌な予感がした。

ガラガラガラ

勢いよくドアが開かれ男性1人と女性2人が入ってきた。
お互いビックリする。
「どなたでしょう」
そう聞かれて戸惑う。
僕は祈莉のなんだろう。
たかがまだ出会って1週間とかそこらの関係。
友達と言うにはおこがましいか。
「もしかして梨久君?」
女性に尋ねられる。
「あ、はい。そうです。あの...」
「やっぱりそうなのね。祈莉の母です」
とても丁寧な方だった。
「君が梨久君か。初めまして、祈莉の父です」
「姉です」
3人が僕に向かってお辞儀をするから
無駄に改まってしまって
「如月 梨久です」
なんて僕も頭を下げる。
「祈莉からよく話を聞いていました。
私達は夜に病室にくるから今までお会いしなかったのね。1度会ってみたいと思っていたの」
「祈莉が僕の話を?」
「えぇ、あなたの話をするようになってからあの子、とても生き生きして私達も嬉しかったんです」
「そんな、僕はなにも」
「お母さん、祈莉の事ちゃんと梨久さんに話した方がいいんじゃない?」
祈莉のお姉さんと名乗った方がそう言った。
「そうね。梨久君、ちょっと外で話しましょうか。時間は大丈夫?」
「はい、大丈夫です」
そう答えて3人で病院の中庭のベンチに座る
3人とも凄く穏やかそうな人達で
ちょっと安心した。
よそ者が祈莉に近づくななんて言われたら僕はどうすることも出来ない。
椅子に机を挟む形で祈莉の家族、そして僕が向き合う形で席につく。
「祈莉からなんて聞いてるか教えて貰ってもいいかな」
祈莉のお父さんに尋ねられる。
「眼が見えなくてずっと病院にいるとだけ伺っています」
やっぱりと3人ともため息交じりの息をはく。
「今日祈莉が病室にいないのは少し病状が悪化したからなの。最近調子良かったんだけど昨日の夜から急に」
「祈莉は昨日とても眠がっていました。それと何か関係が?」
「それが直接的な関係では無いけど病状の悪化に伴って祈莉の身体が無意識のうちに疲れてたんだと思う。君に原因がある訳じゃないからそこは安心してくれ」
肩が少し軽くなるのを感じた。
僕が祈莉に無理をさせていたんじゃないかと
話を聞いてからずっと不安だったからだ。
「祈莉は今別室で特別治療を受けています。いつ出てこれるかは分かりませんが連絡できるようになったら祈莉の方から連絡させるので梨久君の連絡先、貰ってもいいかしら」
「もちろんです」
スマホを出して祈莉のお母さんと連絡先を交換する。
アイコンには幼い祈莉とお姉さんが元気よくピースをしている写真だった。
祈莉の眼は少しブラウンがかっていて
今の眼とはかなり違っていた。
「梨久君、君が祈莉とこれからもいてくれるなら少しばかり祈莉の事を知っていて欲しいんだ」
それから祈莉のお父さんはこれまでの事を語り始めた。