それから1週間僕は本当に毎日祈莉の病室に顔を出した。
 僕は祈莉から点字教わる代わりに祈莉は僕から外の世界の事を学んだ。
 高校はこういう所だとか。
 最近流行りの映画はこんなんだとか。
 最近流星群がよく見えるとか。
 色々。
 その度に瞳をキラキラさせて楽しそうに話を聞いたり僕が点字を読みまがえたりする度にケラケラ笑ったり、そんな祈莉といるとちょっと楽しくなってきた。
 『⠪⠉⠪⠉』「高校」
 『⠪⠉⠳⠋⠴』「甲子園」
 『⠇⠮⠴⠐⠳⠴』「日本人」
 『⠳⠴⠈⠚⠩』「新緑」
 『⠹⠵⠮』「スマホ」
 『⠏⠽⠃』「眠い」
 毎日毎日その日の話の話題とか、祈莉の気持ちとかがテーマに1問、問題が出される。
 お互いが自分の障がいを忘れるくらいには
 楽しんでいた。
 「あっそっか梨久君腕無いんだった」
 なんて言って笑うのは多分この世で祈莉くらいだ。皆気を使ってそんな風には言ってこない。
 まぁこれに関しては祈莉も眼が見えないというハンデを背負っているから言えるセリフなんだろうけど。
 僕自身も友達にそう言われたらちょっと反応に困る。
 「梨久君考え事? 」
 祈莉に声をかけられてハッとした。
 「ん? あぁごめん。ぼーっとしてた」
 「そういう日もあるよね」
 そういって祈莉は大きなあくびを1つ。
 『眠い』と問題を出した日、
 祈莉は本当に凄く眠そうだった。
 「眠いなら僕帰ろうか。眠い時に寝た方がいい」
 んーと考える人のジェスチャーをする。
 考え事をする時、ほんとにそのポーズする人いるんだ。
 「じゃあ、お言葉に甘えようかな」
 この感じ、僕らの言う眠いとはなんかレベルが違う気がした。
 眼は薄開きだし頭もフワフワしてて話し方はいつもの祈莉のハキハキした感じとはちょっと違った。
 「祈莉、大丈夫なの? 」
 「ん? うん。大丈夫だよ。眠いだけだって! 心配し過ぎ!!明日も来てね」
 僕よりちょっと左を見てそういうから少し左にズレて僕が祈莉の視線に入るように移動する。
 「分かったよ。明日もちゃんとくるから」
 「ん。バイバイ」
 「うん」
 わざと椅子を強く引いて祈莉に「立った」という事を知らせる。
 毎日病室に来ているおかげかどうしたら祈莉に分かりやすいか分かってくるようになった。
 足音もわざと少し大きめにして「じゃあね」と言って病室を出た。
 でもなんであんなに眠そうだったんだろう。
 昨日あんまり寝付けなかったのかな。
 人間そういう時もあるか。
 そう結論づけて家に帰った。