少女は日本人顔なのに眼が薄いグレーの様なブルーの様なそんな眼だった。
 目の前にいるのに「誰かいるの? 」なんて変なやつだ。心做しか視点も僕にあっていないように感じる。
 「誰も居ないの? 」
 再度そう聞かれたので
 「いるよ」と仕方なく返事をした。
 「あぁ!良かった〜」と笑う彼女。
 今から死のうっていうのになぜだか口が動いて彼女に話しかけてしまう。
 フェンスの向こう側とこちら側で会話をするという不思議な光景に彼女は不信感を抱いているようには見えなかった。
 「僕のこと、見えてないの? 」
 純粋な疑問をぶつけた。
 もしかして僕もう死んだ? ユウタイリダツ的な? 
 「ごめんねぇ、見えないの。眼の病気でさ。何も見えないんだよね」
 なにヘラヘラしてんだこいつ。
 「何してるの? 」
 「今から死ぬの」
 ヘラヘラしてた彼女が少し眼を開いてビックリした様な顔をしたがすぐまたふにゃっと笑い、
 「君のこともっと知りたい。近くに来てよ」
 なんて言ってきた。
 「聞いてた? 今から死ぬって」
 「うん。聞こえてるよ。耳はいいから安心して? 別に少し死ぬのが遅くなったとて呪われる訳じゃないんだから。ね? 」
 「はぁ」
 あからさまにでっかいため息をついてやる。
 仕方なく彼女に近づいた。
 スーッと手を伸ばして僕のお腹の当たりをツンと触ると「おっ。居た」と言わんばかりの表情で頭、顔、首とペタペタ触る。
 腕の所に来て「ん? 」という表情になった。
 「ないの」
 彼女はハッとして顔を上げた。でも見てる先は全然僕の顔じゃなくて多分、首らへん。

 「祈莉ちゃーん!!そろそろ病室戻る時間だよ〜」
 「あっ!はーい!!今行きまーす。ねぇ、明日も来てよ。私の病室804だから!約束ね? また明日!」
 そういって「いのり」という少女は慣れた足取りで病院の中へ消えていった。
 なんだか死ぬタイミングを逃したというか
 今から飛べないというか
 彼女にちょっと興味が湧いたというかなんというか
 とりあえず今日は帰ることにした。
 別に死ぬのはいつでも出来る。
 ''また明日''
 僕に来るはずの無かった明日が来る。
 なんだか変な感じ。
 気づけば日が傾き始めていた。

 結局いつもと同じ道をたどって帰る。
 最後だと思っていた、ご飯を作るのも、食べるのも、洗うのも。全部またやってきた。
 「明日も来てよってそんな軽いノリで...」
 ベッドの上でよく知る天井を見てふづやく。
 気づいたら目を閉じて眠りについていた。