...ピ、.....ピピピ.......ピ...ピピピピピ、ピピピピ

 アラームの音で目が覚める。
 スマホを覗くと土曜日の昼10時。
 重い体をのっそりと起き上がらせ支度を始める。
 今日は左腕の検査の日。
 面倒な検査も今日で最後だ。
 朝ごはんを作って食べる。
 ご飯を作るのも食べるのも洗うのも今日で最後だ。
 歯磨きも着替えも今日が最後。
 家も見納め。
 今日はなんだかいつもと気分が違った。
 いい天気だ。


 「こんにちは、梨久君。左腕観るね」
 「はい」
 「服あげるね」
 「はい」
 「レントゲン撮りまーす」
 「はい」
 「うん、特に問題無さそうだね」
 「はい」
 「何か身体に違和感とかは大丈夫? 」
 「はい」
 「梨久君」
 「はい」
 「辛い時はいつでもおいでね。君の居場所はここにあるからね」
 「...」
 「嵐山先生〜。こちらお願いします」
 「分かった、今行く。じゃあまた次の検診でね」

 病室をでてのそのそと歩き出す。
 「如月君? 出口反対だけど大丈夫? 」
 「はい、大丈夫です」
 この人が僕と会話する最後の人かな。
 出口とは反対の屋上へ上がる階段を登っていく。
 気持ちは重たいのに身体は軽い、変な感覚だった。
 扉を開けるとゆったりとした春風が頬を撫でた。
 今日は飛び降り日和。
 フェンスを乗り越え病院の縁に経つ。
 「さよならだ。世界」


 「誰かいるの? 」
 その声で踏み出そうとした僕の足が止まった。
 振り返ると少女が1人。
 立っていた。