「凄い!!いつもと空気が違うね! 」
「潮風だ。もう近いよ」
砂浜に続く階段を2人でゆっくり降りる。
1段1段しっかりと踏みしめて、普通なら30秒足らずで降りれる階段を3分程度時間をかけて降りた。
「今どのへん? 」
「あと5歩くらいで海だよ」
「わぁ近いね」
すぐ側にあった石に祈莉を座らせる。
僕も隣に座った。
日はもう傾き始めていて空が段々と色を変えていっていた。
会話はない。
会話なんて要らなかった。
目をつぶって視界を無くす。
冷たい風と一緒に潮風が肌を刺す。
波はザバンザバンと音を立てて僕らの沈黙に音を付けた。
「私ね、2日後手術なの」
「え? 」
「海外の偉い先生がきて手術してくれるんだって」
「それで治るの? 」
「うまくいけばね」
「うまくいかなかったら? 」
「最悪死ぬって」
沈黙。
でもさっきのとは違う。
何か言わなければと口を開こうとするけど
何を言うのが正解なのか、なんて言ったらいいのか分からなくてただ口をモゴモゴさせる。
それを察したのか祈莉が続ける。
「私余命もうすぎてるでしょ? いつ死ぬか分からないの。いつ死ぬか分からないままあそこで死ぬのを待つくらいなら新しい事に挑戦してみようと思うの」
「怖くないの? 」
「怖いよ」
こっちは見ない。
水平線を真っ直ぐ見て話を続けた。
「家族から聞いたかもしれないんだけどさ、私昔は見えてたんだよね。普通に見えてた。病気になって毎日寝るのが嫌だった。目が覚めたら何も見えなくなってるんじゃないかって」
1呼吸置く。
「その日は突然来たよ。起きたら真っ暗だった。絶望なんて言葉じゃ全然足りない。そんな気分だった。それから色んな人に迷惑をかけて面倒くさがられて、私もあそこで死のうと思ったんだよ」
こちらを向いて笑う。
こんな話をしてる時でも笑顔を崩さない。
「でもやめた。この世にはもっと苦しんでる人が沢山いる。辛いのは私だけじゃないってあそこに立ってフと思ったの」
僕とは違った。
僕は自分が楽な方へ逃げる事しか考えてなかった。
でも祈莉は自分だけじゃないと前を向いていた。
そんな祈莉が下した決断。
それを僕に止める権利はないように感じた。
日が落ちてくる。
風も少し強くなってきて祈莉が少し心配になる。
でもここを離れたくなかった。
ずっとこうしていたかった。
この時間がずっと続けばよかった。
祈莉が生きてて僕が祈莉に点字を教えて貰って僕が祈莉に外の事を教えて。
祈莉の眼が見えなくたって僕が教えるから。
僕が祈莉をこうやって導くから。
死んで欲しくなかった。
祈莉に笑ってて欲しかった。
「ねぇ、梨久君。今世界は何色? 」
祈莉からのこの質問。大切に答えたかった。
ちゃんと祈莉に僕が見えてるこの景色を伝えたくて口を開く。
「今、太陽が半分海に隠れてていつも青い海は赤やオレンジや黄色がグラデーションしている」
少しだけ声が震えた。
でも続ける。
「空は太陽に近いところは赤っぽいけど僕らの頭の上はまだ薄い紫や水色が混ざってるよ。海はキラキラ輝いてる。こうしてる今も刻々と世界の色は変化してる 」
「梨久君、上手になったね」
祈莉が満足そうな笑みを浮かべていた。
「祈莉の役に少しでも立ちたくて色の研究みたいなの沢山したからね」
「ありがと。私頑張るからね」
「うん。祈莉の眼が見えるようになったらまた、ここへ来よう」
「約束ね」
「うん、約束」
そういって僕達はもう少しだけこの時間を一緒に過ごした。
どちらからともなく「帰ろうか」と言うまで
ずっと、握っていた手も離れることはなかった。
「潮風だ。もう近いよ」
砂浜に続く階段を2人でゆっくり降りる。
1段1段しっかりと踏みしめて、普通なら30秒足らずで降りれる階段を3分程度時間をかけて降りた。
「今どのへん? 」
「あと5歩くらいで海だよ」
「わぁ近いね」
すぐ側にあった石に祈莉を座らせる。
僕も隣に座った。
日はもう傾き始めていて空が段々と色を変えていっていた。
会話はない。
会話なんて要らなかった。
目をつぶって視界を無くす。
冷たい風と一緒に潮風が肌を刺す。
波はザバンザバンと音を立てて僕らの沈黙に音を付けた。
「私ね、2日後手術なの」
「え? 」
「海外の偉い先生がきて手術してくれるんだって」
「それで治るの? 」
「うまくいけばね」
「うまくいかなかったら? 」
「最悪死ぬって」
沈黙。
でもさっきのとは違う。
何か言わなければと口を開こうとするけど
何を言うのが正解なのか、なんて言ったらいいのか分からなくてただ口をモゴモゴさせる。
それを察したのか祈莉が続ける。
「私余命もうすぎてるでしょ? いつ死ぬか分からないの。いつ死ぬか分からないままあそこで死ぬのを待つくらいなら新しい事に挑戦してみようと思うの」
「怖くないの? 」
「怖いよ」
こっちは見ない。
水平線を真っ直ぐ見て話を続けた。
「家族から聞いたかもしれないんだけどさ、私昔は見えてたんだよね。普通に見えてた。病気になって毎日寝るのが嫌だった。目が覚めたら何も見えなくなってるんじゃないかって」
1呼吸置く。
「その日は突然来たよ。起きたら真っ暗だった。絶望なんて言葉じゃ全然足りない。そんな気分だった。それから色んな人に迷惑をかけて面倒くさがられて、私もあそこで死のうと思ったんだよ」
こちらを向いて笑う。
こんな話をしてる時でも笑顔を崩さない。
「でもやめた。この世にはもっと苦しんでる人が沢山いる。辛いのは私だけじゃないってあそこに立ってフと思ったの」
僕とは違った。
僕は自分が楽な方へ逃げる事しか考えてなかった。
でも祈莉は自分だけじゃないと前を向いていた。
そんな祈莉が下した決断。
それを僕に止める権利はないように感じた。
日が落ちてくる。
風も少し強くなってきて祈莉が少し心配になる。
でもここを離れたくなかった。
ずっとこうしていたかった。
この時間がずっと続けばよかった。
祈莉が生きてて僕が祈莉に点字を教えて貰って僕が祈莉に外の事を教えて。
祈莉の眼が見えなくたって僕が教えるから。
僕が祈莉をこうやって導くから。
死んで欲しくなかった。
祈莉に笑ってて欲しかった。
「ねぇ、梨久君。今世界は何色? 」
祈莉からのこの質問。大切に答えたかった。
ちゃんと祈莉に僕が見えてるこの景色を伝えたくて口を開く。
「今、太陽が半分海に隠れてていつも青い海は赤やオレンジや黄色がグラデーションしている」
少しだけ声が震えた。
でも続ける。
「空は太陽に近いところは赤っぽいけど僕らの頭の上はまだ薄い紫や水色が混ざってるよ。海はキラキラ輝いてる。こうしてる今も刻々と世界の色は変化してる 」
「梨久君、上手になったね」
祈莉が満足そうな笑みを浮かべていた。
「祈莉の役に少しでも立ちたくて色の研究みたいなの沢山したからね」
「ありがと。私頑張るからね」
「うん。祈莉の眼が見えるようになったらまた、ここへ来よう」
「約束ね」
「うん、約束」
そういって僕達はもう少しだけこの時間を一緒に過ごした。
どちらからともなく「帰ろうか」と言うまで
ずっと、握っていた手も離れることはなかった。